ご注文は数オリですか?

「キャリアに関するアドバイス」へ戻る

コンテストに関するアドバイス
更新日:2023-01-28

掲載にあたって,大きな意訳や改変が加わっている可能性があります.もし正確な内容を知りたければ,原文を読むのがもっとも正確でしょう.また,これは必ずしも制作陣の立場を反映しているものとは限らないことに留意してください.

なお,この記事の翻訳・掲載にあたっては,筆者であるテレンス・タオ氏による許可を得ています.

Advice on Mathematics Competitions

スポーツは「卓越」の強烈な例を提示することで社会に貢献しているのだ (George Will)

1980年代のことになるが,私の数学コンテストでの経験は非常に楽しいものだった.スポーツのイベントと同様に,似通った興味や才能を持った仲間と一緒に競技に参加することには,ある種の興奮が感じられる.特に「オリンピック」と呼ばれるレベルのコンテストで活躍すれば,国内のみならず国際的に旅行できるチャンスもある.これは私が中高生に強く経験を勧めることである.

またコンテストは,数学が単に学校の成績や考査といった次元に留まるものではないことを示してくれる.しかし,こうしたコンテストは,(大学以降における)数学を学習したり研究したりするのとは全く異なる活動である.例えば,そうした研究で出てくる問題に対して,数オリの問題のように綺麗に設計されていることを期待してはならない.確かに,解法の個々のステップ自体は,数オリの鍛錬を積んだ人であればすぐに仕上げられるものである可能性もある.しかし,残りの大部分は,代わりに文献を読んだり,既知のテクニックを適用したり,部分問題や特殊なケースを試したり,反例を探したり…….遥かに長いプロセスを必要とし,忍耐強さを求められることになる可能性が高いだろう.

数オリの問題を解く際に学ぶ「古典的」な数学(ユークリッド幾何学や初等整数論など)は,学部や大学院で学ぶ「現代的」な数学とは劇的に異なるように見えるかもしれない.実際には,少し深く掘り下げてみると,古典的なものが現代的なものの基礎の中に隠されていることがわかる.例えば,ユークリッド幾何学の古典的な定理は,現代の代数幾何学や微分幾何学に役立つ優れた例を提供してくれるし,古典的な整数論は現代の代数学や数論などにも同様に役立つ.とはいえ,現代の数学を研究する際には,数学的な視点が大きく変化することを覚悟しておく必要がある(例外として,組合せ論があるだろう.組合せ論のように,古典的な起源を色濃く留める分野も多く残ってはいるが,しかしそれらもまた変化している).

まとめとしては,こうしたコンテストをぜひ楽しんでほしいが,数学の「つまらない」側面も疎かにしてはならない.最終的には,それらの方が遥かに有用であることが判明するからだ.