二次式として表される不定方程式, 特にVieta Jumpingについて解説を行います.
まずは判別式を見よう
本題に入る前に, より根本的な手法について抑えておきましょう. 基本となるのは以下の事実です.
$a,b,c$ を整数とする. $x$ の二次方程式 $ax^2+bx+c=0$ が整数解を持つとき, 判別式 $D=b^2-4ac$ は平方数である.
最も基本的な問題を考えましょう. 以下の不定方程式を整数範囲で解いてみます.\[a^3+2ax=x^2\] $x$ について二次式ですから, 上の事実が使えます. $x^2-2ax-a^3=0$ と書き直せば, 判別式は以下のようになります.\[D=4a^2(a+1)\] これが平方数であるとき $a+1$ は平方数ですから, 適当な整数 $n$ によって $a=n^2-1$ と表せます ($a=0$ の場合も大丈夫です). このとき, 元の式に戻って二次方程式を解くことで以下を得ます. 無数に存在するのに一瞬で確定しました!\[x=(n-1)(n+1)^2,-(n-1)^2(n+1)\] (余談ですが, 上の二式は $n$ を $-n$ と置き換えることで互いに移り合うので, 実はいずれか一方で十分です)
上の式ほど露骨ならば気付きやすいですが, 実際にはもう少しわかりにくい形に隠してあることが多いです. どの文字も三次以上であるものの, 適切な置換を行えば二次に落ちる文字が現れるパターンもあります. とはいえ少なくとも, 二次の文字が始めから存在するときは, まず判別式を念頭に置くようにしましょう. Vieta Jumpingは, それをしてからです.
以下をみたすような整数の組 $(a,b)$ をすべて求めよ. \[(b^2+7(a-b))^2=a^{3}b\]
移項すると実は因数分解できます. すると $a$ についての二次方程式を考えればよいです.
求める解 $(a,b)$ は, 任意の整数 $n$ について $(n,n)$, および $(0,7),(12,3),(-18,-2)$ であることを示す.
与式は以下のように整理できる. 特に以下 $a\neq b$ として考えてよい. \[(a-b)(ba^{2}+(b^{2}-49)a+b(b-7)^{2})=0\] $a$ についての二次方程式 $ba^{2}+(b^{2}-49)a+b(b-7)^{2}=0$ が整数解をもつ. いま判別式 $D$ を計算すると\[D=(7-b)^{3}(7+3b)\]であり, これが平方数であることから $(7-b)(7+3b)$ は平方数である. 特にこれは非負であることから $-2\leqq b\leqq 7$ が必要であり, この範囲のそれぞれについて適するか個別に調べればよい.
以下をみたすような正の整数の組 $(x,y)$ をすべて求めよ.\[\sqrt[3]{7x^2-13xy+7y^2}=|x-y|+1\]
このまま展開すると $x,y$ についていずれも三次になってしまいます. 適切な置換を考えましょう.
求める解は $(x,y)=(1,1)$ および任意の整数 $m\geqq 2$ に対し以下であることを示す. \[\lbrace x,y\rbrace=\lbrace m^3+2m^2-m-1,m^3+m^2-2m-1\rbrace\]
$x=y$ のとき $x^{2/3}=1$ より $x=1$ を得る. 以下, 一般性を失わず $x>y$ として考える.
$n=x-y$ とおくと, 与式は以下の $y$ についての二次方程式と同値である. \[y^{2}+ny-(n^3-4n^2+3n+1)=0\] 簡単な計算により $n=1,2$ は不適であることがわかる. 上について判別式 $D$ を計算すると \[D=n^2+4(n^3-4n^2+3n+1)=(n-2)^{2}(4n+1)\] $D$ は平方数であることが必要であり, すなわち $4n+1$ は平方数である. 特にこれは奇数であるから, 非負整数 $m$ によって $(2m+1)^2$ と表すと, $n=m^2+m$ である. $n\geqq 3$ より $m\geqq 2$ に留意せよ.
ここで元の方程式を解くと, 正の整数解 $y=m^3+m^2-2m-1$ を得る. このとき $x=m^3+2m^2-m-1$ であり, 以上で求めるべき正の整数解が重複なく尽くされていることは容易に確かめられる.
余談. もし題意が単に整数解であれば, 任意の整数 $m$ によって以下で尽くされていることがわかる. \[\lbrace x,y\rbrace=\lbrace m^3+2m^2-m-1,m^3+m^2-2m-1\rbrace\] 上で例外となった $(1,1)$ は実は $m=-1$ の場合に対応している.
以下をみたすような正の整数の組 $(x,y)$ をすべて求めよ. \[x^2+xy+y^2=\left(\frac{x+y}{3}+1\right)^3\]
上問と発想は全く同様です. 右辺の分数式が明らかに鬱陶しいので…?
$x+y=3n$ とおいて $x$ の二次方程式とみなせば, あとは上問と同様ですから各自で試みてください.
Vieta Jumping
Vieta Jumpingとは整数論において, 二次方程式の解と係数の関係を用いたテクニックです. 別名をRoot Flippingとも言います. 1988年のIMOオーストラリア大会の問6での出題が初出であるとされています. この問題は西ドイツによって提出され, あまりの難しさに出題を躊躇う空気もあったようですが, 実際のコンテストでは11名が見事に完答しました. とはいえ, 結局これは20世紀のIMOで二番目に平均点の低い問題となりました.
しかしこれをきっかけにVieta Jumpingはすっかり定着しました. いわゆる「マスターデーモン」をきっかけにLTEの補題が定着した流れのようです. 20年の時を経てIMOベトナム大会で再び姿を現した時には, もう2番級になっていました.
最大のポイントは「解の存在を仮定すれば, 解と係数の関係から別の解が作れる」ということです. これを用いて解の条件を縛ったり, 矛盾を導いたりします. とはいえこれだけでは良くわからないでしょうし, 一から自己開発するのはやや困難な部類の議論だと思うので, 初見の人はとりあえず実例を見てしまっても良いと思います.
近年では安直にそのままな出題はほとんど見られなくなってきましたが, とはいえ類似の発想を肝とする問題はSLPを中心にまだまだ健在です. これを機にマスターしてしまいましょう!
任意の実数 $N$ に対し, 以下の方程式は $x_1,x_2,x_3,x_4> N$ なる整数解を持つことを示せ. \[x_1^2 + x_2^2 + x_3^2 + x_4^2 = x_1 x_2 x_3 + x_1 x_2 x_4 + x_1 x_3 x_4 + x_2 x_3 x_4\]
まず解を見つけましょう. そこから $4$ 数の最小値を吊り上げることを考えます. 最小のものを $x_1$ として, 与式を $x_1$ についての二次式と捉えれば, $x_2,x_3,x_4$ はそのままに異なる整数解を得られます. あとは大小関係を確認しましょう.
自明な解 $(1,1,1,1)$ の存在に留意する. いまある正の整数解 $(x_1,x_2,x_3,x_4)$ が存在したと仮定し, 一般性を失わず\[x_1\leqq x_2\leqq x_3\leqq x_4\]と仮定する. このとき解と係数の関係より, 以下はやはり整数解となる.\[(x_2x_3+x_2x_4+x_3x_4-x_1,x_2,x_3,x_4)\] ここで明らかに $x_2x_3+x_2x_4+x_3x_4-x_1\gt x_4$ であるから, 同様の操作を繰り返すことで $4$ 数の最小値がいくらでも大きい整数解を得られることがわかり, 特に題意は示された.
$a,b$ を正の整数とする. $ab+1$ が $a^2+b^2$ を割りきるとき, その商は必ず平方数であることを示せ.
商 $k$ を固定し, そのとき $a+b$ が最小となるものを取って矛盾を導きましょう.
商となりうる正の整数 $k$ をとり, 以下のような集合を考える. \[S=\lbrace(a,b)\in \mathbb{Z}^+ \times \mathbb{Z}^+ \mid a^2+b^2=k(ab+1)\rbrace \] $S$ の元 $(a,b)$ のうち, $a+b$ が最小であるものが存在するから, そのうち一つを適当に $(A,B)$ とする. 一般性を失わず $A\geqq B$ としてよい. 以下 $k$ が平方数でないとして矛盾を導く.
ここで以下の $x$ についての二次方程式を考えると, 一方の解は $x=A$ である. \[ x^2+B^2=k(Bx+1) \iff x^2-kBx+(B^2-k)=0 \] もう一方の解を $x=A’$ とすると, 解と係数の関係より以下が従い, 特に $A’$ は整数である. \[A’=kB-A=\frac{B^2-k}{A}\] $k$ が平方数でないことより $A’\neq 0$ である. また $A’\lt 0$ と仮定すると, 以下より矛盾を導く. \[0=A’^2-kBA’+B^2-k\geqq A’^2+k+B^2-k>0\] すなわち $(A’,B)\in S$ である. ここで $A\geqq B$ より以下が従うが, これは $A+B$ の最小性に矛盾する. \[A’=\frac{B^2-k}{A}\lt A\]
$a,b$ を正の整数とする. $ab$ が $a^2+b^2+1$ を割りきるとき, その商は $3$ であることを示せ.
問5のように $(A,B)$ をとったとき, まず $A=B$ であることを示しましょう. このとき $k=3$ は明らかです.
商となりうる正の整数 $k$ をとり, 以下のような集合を考える. \[S=\lbrace(a,b)\in \mathbb{Z}^+ \times \mathbb{Z}^+ \mid a^2+b^2+1=kab\rbrace \] $S$ の元 $(a,b)$ のうち, $a+b$ が最小であるものが存在するから, そのうち一つを適当に $(A,B)$ とするとき, $A=B$ であることを示す. このとき $k=2+1/A^2$ より明らかに $k=3$ である. 一般性を失わず $A\gt B$ と仮定して矛盾を導く.
ここで以下の $x$ についての二次方程式を考えると, 一方の解は $x=A$ である. \[ x^2+B^2+1=kBx \iff x^2-kBx+(B^2+1)=0 \] もう一方の解を $x=A’$ とすると, 解と係数の関係より以下が従い, 特に $A’$ は正の整数であるから $(A’,B)\in S$ である. \[A’=kB-A=\frac{B^2+1}{A}\] ここで $A\gt B\geqq 1$ より以下が従うが, これは $A+B$ の最小性に矛盾する. \[A’=\frac{B^2+1}{A}\lt A\]
$a,b$ を正の整数とする. $4ab-1$ が $(4a^2-1)^2$ を割りきるとき, $a=b$ であることを示せ.
まずは $(4a^2-1)^2$ から次数を落としましょう. $a=b$ の意味が明確に立ち現れてきます.
以下の変形より, $4ab-1$ が $(4a^2-1)^2$ を割りきるとき, $4ab-1$ は $(a-b)^2$ を割りきる. \[(a-b)^2=b^2(4a^2-1)^2-(4ab-1)(4a^3b-2ab+a^2)\]
条件をみたす組 $a\neq b$ が存在したとして, $k=(a-b)^2/(4ab-1)$ とおき, 以下のような集合を考える. \[S=\lbrace(a,b)\in \mathbb{Z}^+ \times \mathbb{Z}^+ \mid (a-b)^2=k(4ab-1)\rbrace \] $S$ の元 $(a,b)$ のうち, $a+b$ が最小であるものが存在するから, そのうち一つを適当に $(A,B)$ とする. 一般性を失わず $A\geqq B$ としてよい. ここで $k\neq 0$ であることより, 特に $A\gt B$ であることに留意する.
ここで以下の $x$ についての二次方程式を考えると, 一方の解は $x=A$ である. \[ (x-B)^2=k(4Bx-1) \iff x^2-(2B+4kB)x+(B^2+k)=0 \] もう一方の解を $x=A’$ とすると, 解と係数の関係より以下が従い, 特に $A’$ は正の整数であるから $(A’,B)\in S$ である. \[A’=2B+4kB-A=\frac{B^2+k}{A}\] ここで $A+B$ の最小性より $A’\geqq A$ であるが, このとき以下より矛盾を得る. \[\frac{B^2+k}{A}\geqq A \Longrightarrow \frac{(A-B)^2}{4AB-1}=k\geqq A^2-B^2 \Longrightarrow (A-B)\geqq(A+B)(4AB-1)>A+B\]
$a,b$ を $ab\neq 1$ なる正の整数とする. $ab-1$ が $a^2+b^2$ を割りきるとき, その商は $5$ であることを示せ.
これまでと同様に $(A,B)$ をとったとき, まず少なくとも一方が $1$ であることを示しましょう.
商となり得る正の整数 $k$ をとり, 以下のような集合を考える. \[S=\lbrace(a,b)\in \mathbb{Z}^+ \times \mathbb{Z}^+ \mid a^2+b^2=k(ab-1)\rbrace \] $S$ の元 $(a,b)$ のうち, $a+b$ が最小であるものが存在するから, そのうち一つを適当に $(A,B)$ とする. 一般性を失わず $A\geqq B$ としてよい. このとき $B=1$ であることを示す. 以下 $B\geqq 2$ と仮定して矛盾を導く.
ここで以下の $x$ についての二次方程式を考えると, 一方の解は $x=A$ である. \[ x^2+B^2=k(Bx-1) \iff x^2-kBx+(B^2+k)=0 \] もう一方の解を $x=A’$ とすると, 解と係数の関係より以下が従い, 特に $A’$ は正の整数であるから $(A’,B)\in S$ である. \[A’=kB-A=\frac{B^2+k}{A}\] ここで $A+B$ の最小性より $A’\geqq A$ であるが, このとき明らかに以下より矛盾を得る. \[\frac{B^2+k}{A}\geqq A \iff \frac{A^2+B^2}{AB-1}\geqq A^2-B^2\gt A+B \iff A+B\gt A^2(B-1)+B^2(A-1)\] したがって $B=1$ である. このとき以下より $A=2$ または $A=3$ が必要であるが, いずれの場合も $k=5$ である. \[ k=A+1+\frac{2}{A-1}\]
$a$ を平方数でない正の整数とする. 以下の方程式について, $x\gt\sqrt{a}$ なる整数解 $(x,y)$ が存在するような $k$ の集合を $A$ とし, $0\leqq x\lt\sqrt{a}$ なる整数解 $(x,y)$ が存在するような $k$ の集合を $B$ とする. このとき $A=B$ であることを示せ. \[k=\frac{x^2-a}{x^2-y^2}\]
公式PDFに掲載のSolution 3を参照してください. (著者の気分次第で和訳される可能性があります)
$a^2+b^2+1$ が $ab$ で割りきれるような, 正の整数の組 $(a,b)$ をすべて求めよ.
$b^2+1$ が $a$ で割りきれ, $a^2+1$ が $b$ で割りきれるような, 正の整数の組 $(a,b)$ をすべて求めよ.
$a^mb^n=(a+b)^2+1$ をみたす正の整数の組 $(a,b,m,n)$ をすべて求めよ.
$m,n$ を正の整数とする. $m^2-n^2+1$ が $n^2-1$ を割りきるとき, $m^2-n^2+1$ は平方数であることを示せ.
$1$ 以上 $1981$ 以下の整数 $m,n$ について, $(n^2-mn-m^2)^2=1$ のとき, $m^2+n^2$ としてありうる最大の値を求めよ.