海陽中等教育学校 数学部によるKAMO 2020の問題および解答・解説を掲載します.
KAMOとは?
こんにちは. ごちすう製作委員会の平石です.
KAMOとは, 私が在籍していた海陽中等教育学校の数学部が文化祭のたびに公開する, すべて部員が作ったオリジナル問題で構成された問題集です. 例年はTwitterで公開を行っていますが, ネットの海に放流したままにするのも勿体ないと思い, 運営権限でごちすうに載せてもらうことにしました. 今回掲載するのは, そのうち2020年11月に公開されたものです.
少し注意していただきたい点として, 根本的にはこれらの問題は当然面白い問題を作ろうという気持ちで作っているわけですが, 「教育的」「実力を測る」といった面はあまり意識しておらず, むしろ「非教育的」「天下り」「悪問」を進んで生み出そうとして誕生した問題も含まれます. また, 必ずしもすべてが数オリの傾向に近い問題とも限りません. 言ってしまえば, これらの問題に取り組むことががすべて数オリの対策になるとは限らない, という話です.
とはいえ教育的な良問やなかなかの自信作も含まれますので, ぜひ暇つぶしにでも挑戦されてみてはいかがでしょうか.
※「解説」欄には平石からの運営目線のコメントと, 部外者として全問を解いた宿田・平山による感想を掲載しています.
問題・解答・解説
$1\times 1$ の正方形が $4$ つ, 辺で繋がって連結となった一塊をテトロミノとよび, 全部で $7$ 種類ある.
$2020\times1108$ のマス目があり, ココアとチノがこのマス目を用いてゲームを行う. ゲームでは, 先攻から順に交互に, マス目に沿うようにテトロミノを置いていく. ただし, それより前に既にテトロミノが置かれたマスに重なってはならない. また, テトロミノがマス目からはみ出してはならない. 先に操作が出来なくなった方が負けである.
ココアは優しいお姉ちゃんになりたいので, チノに先攻か後攻か選ばせてあげることにした. 勝つためにチノは, どちらを選ぶのが良いか.
チノは先攻を選ぶことで, 次のような戦略によって必ず勝つことができる:まず, チノは $2\times2$ の正方形のテトロミノを盤の中心に置く. それ以降は, 直前のココアの操作に対して点対称となるように操作する. この戦略をとる限りチノは必ず操作でき, このゲームは必ず有限回の操作で終わることから, 先に行動できなくなるのはココアである.
宿田の感想. 一番だしそんなに複雑ではないのだろう, と思ったら解けました. テトロミノが全種類出てきてる時点で細かい考察なんて無理ですし, ゲームといえばモノマネ戦法ですし.
平山の感想. パーツ各々の特性を考えてしまって完全にハマりました. 幼稚園児だったころに祖父に初めて将棋を教えられて, 何もわからずとりあえず点対称に行動してみたことを思い出しました(早々に隙間から角を取られて我に返った覚えがあります). 問題の配置から解法の軽重をメタ読みするのも時には大切でしょう(考えすぎは良くない). とはいえ, 実は縦横の長さが偶数なことが本質ですし, この問題みたいな発想が初めから引き出しに無いと割と厳しいような気もします.
平石のコメント. 中3の後輩からの問題です. かなりオーソドックスなゲームの問題です. 二人が行動できなくなったら負け, というゲームの必勝法を考える問題では, 「相手を詰ませる」よりも「自分が必ず行動できる」という視点を持つと上手くいくことが多いです. その中でも今回登場した「相手と同じ行動をとる」戦法は特にベタ中のベタと言って良いでしょう. 様々な問題で似たような考え方が登場するのでぜひ抑えておきましょう.
$p^2+q^3$ と $p^3+q^2$ がともに平方数となるような素数の組 $(p, q)$ をすべて求めよ.
$(p,q)=(3,3)$ は明らかに条件をみたす. 以下, これのみが解であることを示す. 一般性を失わず $p\leqq q$ とする.
解法1. $p^2+q^3=n^2$ とおくと, $(n-p)(n+p)=q^3$ であることから, 以下の $({\rm i}),({\rm ii})$ のいずれかである.
$({\rm i})$ $n-p=1,n+p=q^3$ のとき
辺々差をとることで $2p=q^3-1$ であり, $p\leqq q$ より $2p\geqq p^3-1$ が分かる. ここで以下は単調増加である.\[p^3-2p-1=p(p^2-2)-1\]$p=2$ のとき $p^3-2p-1=3\gt 0$ であることと合わせて, 任意の素数 $p$ について $2p\lt p^3-1$ であり, これは矛盾.
$({\rm ii})$ $n-p=q,n+p=q^2$ のとき
辺々差をとることで $2p=q^2-q$ であり, $p\leqq q$ より以下がわかる. \[2p=q^2-q=q(q-1)\geqq p(p-1) \implies p(p-3)\leqq 0 \implies p\leqq 3\] $p=2$ のとき, $q^2-q=4$ をみたす $q$ は存在しないので不適. $p=3$ のとき, $q^2-q=6$ をみたす $q$ は $3$ のみである.
解法2. $({\rm i})$ までは解法1と同じである. $({\rm ii})$ のとき, 同様に辺々差をとることで $2p=q^2-q$ が分かる.
ここで $q=2$ とすると, $p=1$ となりこれは素数ではないので矛盾する. したがって $q^2-q$ は奇素因数 $q$ を持ち, $2p$ が持ち得る奇素因数は $p$ のみなので, $p=q$ と分かる. 以上より $2p=p^2-p$ が必要であり, 特に $p=q=3$ を得る.
宿田の感想. やることをやったら終わりました. 典型です.
平山の解法. 解法2で解いたので少しは頭を使った気になったんですが, 不等式評価だけで終わるのか…それはそうか.
平石の感想. 高2の後輩からの問題です. こちらも典型的な整数論です. 「$n^2+a=m^2$」のような形を見たら, 僕の場合は「$a=(m+n)(m-n)$ の形に因数分解して, $a$ の素因数に注目する」か「$m=n+k$ とおいて, $k$ の大きさについて不等式評価する」といった方針が思いつきます. 今回は $a$ が $q^3$ と既に素因数分解された形だったので, 前者がそのまま上手くいきます. かなり典型ですが, シンプルで教育的な問題だと思います.
鋭角三角形 $ABC$ において, その内心を $I$, 内接円を $\omega$ とする. また $I$ を通り $BC$ に平行な直線を $\ell$ とし, $\omega$ が $AB,AC$ と接する点をそれぞれ $D,E$ とする. $B,C$ から $\ell$ におろした垂線の足をそれぞれ $P,Q$ としたとき, $PD$ と $QE$ は $\omega$ 上で交わることを示せ.
$BC$ と $\omega$ の接点を $K$ とし, $KI$ と $\omega$ の交点のうち $K$ でない方を $L$ とする.
解法1. $KI,IL,BP,CQ$ は $\ell$ に垂直で, 長さはすべて $\omega$ の半径に等しいので, 以下が従う.\[\overrightarrow{KI}=\overrightarrow{IL}=\overrightarrow{BP}=\overrightarrow{CQ}\]よって $IBCK$ と $LPQI$ は合同であり, $IB/\hspace{-0.24em}/LP$ である.
また $\triangle IBP$ は $\triangle BID$ 以下より合同であるから, $PDIB$ は等脚台形であり, $IB/\hspace{-0.24em}/DP$ である. \[IB=BI,\ BP=KI=ID,\ \angle BPI=\angle IDB=90^\circ\] 以上より, $LP$ と $DP$ はいずれも $IB$ に平行であり, 特に $L,P,D$ が同一直線上にあることが示された. 同様に $L,Q,E$ も同一直線上にあるので, $PD$ と $QE$ が $L$ で交わることが分かり, 特に題意は示された.
解法2. 以下より五点 $B,K,I,D,P$ は同一円周上に存在する. \[\angle BKI=\angle BPI=\angle BDI=90^\circ\] よって $\angle KDP=\angle KIP=90^\circ$ である. また $LK$ は $\omega$ の直径であることから $\angle LDK=90^\circ$ が従い, 特に $L,P,D$ が同一直線上にあることが示された. 以降は解法1と同様である.
宿田の感想. 共点問題は「二つの交点を取って, その交点をもう一つが通る」ことを示すのが定石ですが, 今回は共点となる点を最初に特徴づける ($F$ の対蹠点) こともできます. どちらでやっても大丈夫ですが, こういう問題は結論を仮定した議論をしてしまいがちなので注意しましょう.
平山の感想. 解法2です. 一瞬で直角が大量に見えたので終わりでした. むしろこれが想定じゃなかったことに驚いた.
平石のコメント. 比較的簡単めな幾何として結構良い問題ができたんじゃないかと思っています. 想定解は解法1だったんですが, 解いてくれた人は解法2ばかりでした. 確かに, と思いました. 作問背景としては, フリーハンドで図を描いて遊んでたら何か成り立ちそうだと思って, 実際に考えてみたら成り立ったのでそのまま問題にしました. 幾何の問題って結構そうやって生まれますよね. 恐らく交わる一点が $L$ だというのは正確に作図してみて初めて気付いたという人が多いと思います. それに気付くことがこの問題のポイントなので, 正確な作図は大事です.
相異なる $n$ 個の正の実数 $a_1,a_2,\ldots,a_n$ が次の条件をみたすとき, 整数 $n$ としてありうる最大値を求めよ.
- 任意の $1\leqq i\lt j\lt k\leqq n$ なる整数 $i,j,k$ について, 三辺の長さが $a_i,a_j,a_k$ であるような鈍角三角形が存在する.
ただし, $3$ つの頂点が同一直線状にあるようなものは三角形とみなさないものとする.
求める最大値は $4$ であることを示す. まず $n=4$ のときは $(a_1,a_2,a_3,a_4)=(7,8,11,14)$ とすれば条件を満たす.
以下 $n\geqq 5$ について不適であることを示す. 特に $n=5$ についてのみ示せば十分であるから, 条件を満たす正の実数 $a_1,a_2,a_3,a_4,a_5$ が存在すると仮定して矛盾を導く. 対称性より $a_1\lt a_2\lt a_3\lt a_4\lt a_5$ として一般性を失わない.
三角形の成立条件より $a_1+a_2\gt a_5$ が成り立つ. また鈍角三角形の条件より以下が従う. \[a_1^2+a_2^2\lt a_3^2,\ a_2^2+a_3^2\lt a_4^2,\ a_3^2+a_4^2\lt a_5^2\]
これらより以下の不等式を得る. \[(a_1+a_2)^2\gt a_5^2\gt a_3^2+a_4^2\gt a_3^2+(a_2^2+a_3^2)=a_2^2+2a_3^2\gt a_2^2+2(a_1^2+a_2^2)=2a_1^2+3a_2^2\]
よって, 以下より矛盾を導く. \[0\gt 2a_1^2+3a_2^2-(a_1+a_2)^2=(a_1-a_2)^2+a_2^2\]
備考. 別解というほどではないが, $n=4$ の構成や $(a_1+a_2)^2\gt 2a_1^2+3a_2^2$ からの矛盾の導き方は様々考えられる.
宿田の感想. 鈍角三角形であるという条件が簡単に言い換えられるのでそこから始めました. $2$ 乗の比較だけだといくらでも大きくなることが許されるので, 逆向きの不等式が欲しくなると三角不等式で終わります. 教育的だと思います.
平山の感想. 宿田の感想にもう全部書いてありますね. この問題は一体なんなのでしょう. これは教育的なのか…?
平石のコメント. これは問題を先に考えて後で解いた形になるんですが, JJMOの2番とかに出てもおかしくなさそうです. 答えの予想を立てながら実験しつつ定めていく感じになるので, あまり慣れていない人は手こずったかもしれません. あとは出てくる条件で何が一番厳しくて, どの条件を扱えば良いか, という視点は大事ですね.
非負整数 $a,b$ を用いて $\sqrt{11^a\times 3^b+1}$ と表せるような正の整数をすべて求めよ.
$\sqrt{11^a\times 3^b+1}=n$ とおくと, $11^a\times 3^b=(n-1)(n+1)$ である. ここで $n-1$ と $n+1$ は同時に $3$ の倍数になり得ず, また同時に $11$ の倍数にもなり得ないため, 以下のように場合分けできることが容易にわかる.
$({\rm i})$ $n=2$ のとき, $(a,b)=(0,1)$ とすることで条件を満たす.
$({\rm ii})$ $n\geqq 3,\ n-1=11^a,\ n+1=3^b$ のとき
$11^a+2=3^b$ である. $n\geqq 3$ より $a\geqq 1$ であることを踏まえると, ${\rm mod}~11$ でこれは解を持たないことが分かる.
$({\rm iii})$ $n\geqq 3,\ n-1=3^b,\ n+1=11^a$ のとき
$3^b+2=11^a$であり, また $n\geqq 3$ より $a\geqq 1$ である. $a\geqq 2$ のとき, ${\rm mod}~121$ でこれは解を持たないことが分かる. したがって $a=1$ として良く, このとき $b=2$, すなわち $n=10$ のみが適する.
以上より, 求める値は $n=2,10$ であることが示された.
宿田の感想. 色々な ${\rm mod}$ で試しても全然倒れなくて泣きました. $a=1$ を潰さずに $a\geqq 2$ を潰すということは……まさか $\bmod 121$??……色々試してみるものですね. もっと小さな ${\rm mod}$ で潰せるかは知りません.
平山の感想. 問題を見た瞬間に何も考えず解答の場合分けまでは到達してください. 問題は ${\rm mod}$ 調合ゲームなんですが, 宿田も書いている通り解があるか無いかは大事なところです. 解が無ければ適当に死にがちですが, 解があるときはそれを生かさないといけないことに留意しましょう. この気持ちで出てきがちなのが $\bmod 8$ とか $\bmod 9$ とかですね.
などと, せっかく教育的側面をフォローしたのに, 作問背景が酷すぎますね. フォロー撤回してもいいですか?
平石のコメント. 最初の問題作です. 最初の一手はベタなので $11^a\times 3^b=(n+1)(n-1)$ までは行けて欲しいといったところですが, $3^b+2=11^a$ の場合分けで苦戦した方が多いかも…?大きな ${\rm mod}$ で見るだけという典型的なクソ問を作ろうとして色々探した結果, $243$ が ${\rm mod}\ 121$ で $1$ というのを見つけ, それを問題にしようとしてこうなりました. 反省はしていません.
正三角形 $ABC$ の内部に点 $P,Q$ があり, $AP=CQ$ かつ $AQ=BP$ をみたしている. 点 $X,Y$ が\[AB\parallel QX,\quad AP\parallel BX,\quad AC\parallel PY,\quad AQ\parallel CY\]をすべてみたすとき, $4$ 点 $B,C,X,Y$ は同一円周上にあることを示せ.
解法1. 条件より直ちに $\triangle ABP\equiv \triangle CAQ$ がわかる. ここで $\triangle ABC$ の内部に以下をみたす点 $R$ をとる. \[\triangle ABP\equiv \triangle CAQ\equiv \triangle CBR\] すると対称性より $AB/\hspace{-0.24em}/QR,AC/\hspace{-0.24em}/PR$ が分かり, 特に点 $R$ は $QX$ と $PY$ の交点である. ここで $AB/\hspace{-0.24em}/QX,AP/\hspace{-0.24em}/BX$ および $\triangle ABP\equiv \triangle CBR$ より, $\angle RXB=\angle PAB=\angle RCB$ が従い, 四点 $B,C,R,X$ が同一円周上にあることが分かる. 同様に四点 $B,C,R,Y$ も同一円周上にあるので, 特に題意は示された.
解法2. $AP$ と $QX$ の交点を $K$, $AQ$ と $PY$ の交点を $L$ とする. $\triangle ABP\equiv \triangle CAQ$ に留意して, \[∡ BAP=∡ ACQ=\alpha,\ ∡ PBA=∡ QAC=\beta\] とおく. $AB/\hspace{-0.24em}/QK$ より $∡ QKA=\alpha$, 同様に $∡ ALP=\beta$ である. ここで正弦定理より, \[\frac{QK}{\sin \angle KAQ}=\frac{QA}{\sin \angle QKA}=\frac{QA}{\sin \alpha}=\frac{QA}{\sin \angle ACQ}=\frac{AC}{\sin(\alpha+\beta)}\] \[\frac{PL}{\sin \angle PAL}=\frac{PA}{\sin \angle ALP}=\frac{PA}{\sin \beta}=\frac{PA}{\sin \angle PBA}=\frac{AB}{\sin(\alpha+\beta)}\] これらと $\angle KAQ=\angle PAL,\ AC=AB$ より $QK=PL$ がわかる. さらに以下より $QX=PY$ がわかる. \[KX=AB=AC=LY\] 次に, 四角形 $QCSX$ および $PBTY$ が平行四辺形になるように点 $S,T$ をとる. このとき, \[∡ CSX=∡ XQC=∡ XQL+∡ LQC=∡ BAQ+\alpha+\beta=∡ BAC+\alpha\] \[∡ XBC=∡ XBA-∡ CBA=-\alpha-∡ BAC\] より $∡ CSX+∡ XBC=0^\circ$ が従い, 四点 $B,C,S,X$ は同一円周上にある. 同様に $B,C,T,Y$ も同一円周上にある.
さらに $CS=QX=PY=BT$ および $\angle BCS=\angle TBC=60^\circ$ より, 四点 $B,C,T,S$ は等脚台形をなし, 特に同一円周上にある. 以上より六点 $B,C,X,Y,S,T$ が同一円周上に存在することが分かり, 題意は示された.
宿田の感想. 最初は複素で倒したのですが, 平山に脅されたので初等で解き直しました. 怖いですね. 作図に使った線を残すことで見つけられる補助線や補助点は意外にたくさんあるので, 作図は面倒がらずに正確にしましょう.
平山の感想. 解いたときに何を思っていたか忘れたので改めて自分の解答を見たら, 何の前触れもなく点 $R$ が降誕していました. 特に苦労した覚えはないし, すぐ思い付いたような気がします. こういうのは慣れるしかないのかな.
平石のコメント. 一発ゲーですが, 宿田によると複素計算がかなり楽だとか. 確かに楽そうではありますね. 確かめてはいません. この解法1はまあ確かに点 $R$ という天下りな点が降っているような感じですが, 正確に作図してみると円が $QX$ と $PY$ の交点を通っていると気付きやすいと思います. 僕的には結構お気に入りの一問です. ちなみに解法2は学校の友達に出したときの友達の解法で, すごいなと思いました. いろんな解法があるんですね.
任意の正の実数 $a, b, c$ について,以下の不等式を示せ. \[\sqrt{a^2-ab+b^2}+\sqrt{b^2-bc+c^2}\geqq\sqrt{a^2+ac+c^2}\]
解法1. 平面上に以下をみたすような点 $O,A,B,C$ をとる. \[\angle AOB=60^\circ,\ \angle BOC=60^\circ,\ \angle AOC=120^\circ,\ OA=a,\ OB=b,\ OC=c\] このとき余弦定理より以下が成立する. \[AB=\sqrt{a^2-ab+b^2},\ BC=\sqrt{b^2-bc+c^2},\ CA=\sqrt{a^2+ac+c^2}\] さらに三角不等式より $AB+BC\geqq AC$ が成り立つことに留意すると, 示すべき不等式を得る.
解法2. まず以下の不等式に留意する. \[4\left(a^2-ab+b^2\right)\left(b^2-bc+c^2\right)= \left(ab+bc+ca-2b^2\right)^2+3\left(ab+bc-ca\right)^2\geqq \left(ab+bc+ca-2b^2\right)^2\] 最左辺と最右辺はともに非負であることから, それぞれの正の平方根をとることで以下を得る. \[2\sqrt{\left(a^2-ab+b^2\right)\left(b^2-bc+c^2\right)}\geqq\left|ab+bc+ca-2b^2\right|\geqq ab+bc+ca-2b^2\] さらに, この両辺に $a^2-ab+2b^2-bc+c^2$ を足して式変形することで以下を得る. \[\left(\sqrt{a^2-ab+b^2}+\sqrt{b^2-bc+c^2}\right)^2\geqq a^2+ac+c^2\] 両辺ともに非負であることから, それぞれの正の平方根をとることで示すべき不等式を得る.
宿田の感想. 個人的には典型だと思います. 見て0.5秒で倒れました……
平山の感想. 全く同じ問題を中1とかで知って驚いた記憶があります. 『美しい不等式の世界』で見たんだと思います. $x^2\pm xy+y^2$ にこういう捉え方があることは知っておいたら良いですが, いざ使ったことがあるかと言われれば微妙.
平石の感想. 2番と同じく高2の後輩が出してきたんですが, 平山と宿田にド典型だろうと言われ, 難易度1が付きました. 僕は見たことありませんでした. まあ1問ぐらいそういうのがあっても良いのです. 一度は解くべき問題ということで. ルートばかりの不等式はなかなか多項式にして潰すということがしづらいのですが, 解法2のように $2$ 乗して根性で展開しても解けるんですね. あまり例は多くないですが, 不等式が幾何的に片付くこともあるということで, 特にルートがいっぱいあって埒があかない感じだったら, ちょっと疑ってみても良いという感じでしょうか.
$A$ を実数の定数とし, 数列 $\lbrace a_n\rbrace$ を以下で定める. \[a_0=A,\ a_{n+1}=a_{n}^2-2\ \ (n=0,1,\cdots)\] $n\to\infty$ としたとき, $\lbrace a_n\rbrace$ が収束するような $A$ をすべて求め, またそのときの極限値を求めよ.
ある $N$ について $a_N\gt 2$ と仮定する. このとき以下が従う. \[a_{N+1}-a_N=(a_N-2)(a_N+1)\gt0\] したがって, $n\geqq N$ において $a_n$ は常に $2$ より大きいことが帰納的にわかり, $\lbrace a_n\rbrace$ は狭義単調増加である. このとき $(a_n-2)(a_n+1)$ も狭義単調増加であるから, $\lbrace a_n\rbrace$ は $n\to\infty$ で発散する. 以上より, 特に $A\gt 2$ のとき $\lbrace a_n\rbrace$ は発散し, $A\lt -2$ のときも $a_1\gt 2$ となるので発散することが分かる.
次に $|a_n|\leqq 2$と仮定すると, $a_n=2\cos \theta_n$ となるような $\theta_n$ をとることができ, このとき \[a_{n+1}=2(2\cos^2\theta_n-1)=2\cos2\theta_n\] したがって $|A|\leqq 2$ のとき, $A=2\cos\theta$ となるような $\theta$ をとることで, $a_n=2\cos2^n\theta$ と書くことができる.
$\lbrace a_n\rbrace$ が収束すると仮定し, その収束値を $2\cos \phi$ とする. このとき, 任意の $\epsilon$ についてある $N$ が存在して, 以下が従う. \[n>N\Longrightarrow\exists m,(|2^n\theta-(\phi+2m\pi)|<\frac{\epsilon}{2}) \lor (|2^n\theta-(-\phi+2m\pi)|<\frac{\epsilon}{2})\] ここで $a_{n+1}$ に注目すると以下が成り立つことになり, 特に $\cos 2\phi$ も収束値である. \[(|2^{n+1}\theta-(2\phi+4m\pi)|<\epsilon) \lor (|2^{n+1}\theta-(-2\phi+4m\pi)|<\epsilon)\] したがって, 以下より収束値として考えられるのは $2$ または $-1$ のみである. \[\cos \phi=\cos 2\phi=2\cos^2\phi-1\]
以下 $\epsilon=\frac{\pi}{100}$ とする. まず収束値が $2$ のとき, $\phi=0$ としてよい. 以下のような $N$ をとる. \[n>N\Longrightarrow\exists m,|2^n\theta-2m\pi|<\epsilon\] ここである $n>N$ について $2^n\theta\neq 2m\pi$ だったとすると, $2^k|2^n\theta-2m\pi|>\epsilon$ なる最小の $k$ をとることで \[\epsilon<|2^{n+k}\theta-2^{k+1}m\pi|\leqq 2\epsilon\] より矛盾する. したがって, 十分先で $\exists m,2^n\theta=2m\pi$ であり, すなわち $A$ は整数 $p$ と非負整数 $s$ を用いて\[A=2\cos\frac{2p\pi}{2^s}\]と表せる値である.
次に収束値が $-1$ のとき, $\phi=\frac{2\pi}{3}$ としてよい. 以下のような $N$ をとる. \[n>N\Longrightarrow\exists m,\left(\left|2^n\theta-\left(\frac{2\pi}{3}+2m\pi\right)\right|<\epsilon\right) \lor \left(\left|2^n\theta-\left(-\frac{2\pi}{3}+2m\pi\right)\right|<\epsilon\right)\] ここである $n>N$ について $2^n\theta\neq\frac{2\pi}{3}+2m\pi$ かつ $2^n\theta\neq-\frac{2\pi}{3}+2m\pi$ だったとする. \[\left|2^n\theta-(\frac{2\pi}{3}+2m\pi)\right|<\epsilon\] のとき, 以下をみたす最小の $k$ をとる. \[2^{2k}\left|2^n\theta-\left(\frac{2\pi}{3}+2m\pi\right)\right|>\epsilon\] このとき, \[\epsilon<\left|2^{n+2k}\theta-\left(\frac{2\pi}{3}+2\left(2^{2k}m+\frac{4^k-1}{3}\right)\pi\right)\right|<4\epsilon\] より矛盾する. \[\left|2^n\theta-(-\frac{2\pi}{3}+2m\pi)\right|<\epsilon\] のとき, 以下をみたす最小の $k$ をとる. \[2^{2k}\left|2^n\theta-\left(-\frac{2\pi}{3}+2m\pi\right)\right|>\epsilon\] このとき, \[\epsilon<\left|2^{n+2k}\theta-\left(-\frac{2\pi}{3}+2\left(2^{2k}m-\frac{4^k-1}{3}\right)\pi\right)\right|<4\epsilon\] より矛盾する. したがって, 十分先で \[\exists m,\left(2^n\theta=\frac{2\pi}{3}+2m\pi\right)\lor\left(2^n\theta=-\frac{2\pi}{3}+2m\pi\right)\] であり, すなわち $A$ は整数 $p$ と非負整数 $s$ を用いて \[A=2\cos\frac{2p\pi}{3\cdot 2^s}\] と表せる値である.
宿田の感想. 受験数学の典型問題だと思ってグラフを書いても実験しても全然収束しなくて焦りました. 詰まないときは根本からズレている可能性があるので一旦引いて思考をリセットすることも大事です.
平山の感想. とりあえずグラフに折れ線を書き込んで考えたのが僕だけじゃなくて安心しました. でも勘の良い人なら式を見た瞬間に三角関数で置換する定番だと気付けてもおかしくない気はしました. 解答例の後半は何やら大変なことになっていますが, Kroneckerの稠密定理を知っていればその要領で片付くと思います. $2\pi$ の不定性が少し面倒だけど.
平石のコメント. これは中3の後輩からもらったんですが, なかなかびっくりしました. 最初は「いやこれ大学受験でよくあるやつじゃん, グラフ書いて縦横に線引いていったら収束するやつでしょ」と思って解き始めたんですが, 驚いたことに全然収束してくれないんですよね. それで意外に振動する値が多いのかなと思い, ちょっと引き返して式とにらめっこしていると, 解答のような置換が思いつきました. 見た目の第一印象からは想像できない議論と結論に至る, なかなか良くできた問題です. ただ, 本質に気づいてからの議論が非常に面倒くさかった. このような収束を示すというのは大学受験の勉強しててもまず出てこない議論なので, そこからちゃんと示しきるのにはかなりの時間がかかりましたが, 何とか終えました. 極限の厳密な定義を知らないといけないので, まあ高校範囲は超えていると思って良いですね.
$2$ つの多角形が相似であるが合同でないとき, それらは完全な相似であるという. 正方形を有限本の線分で切断することで, 次の条件をみたすように $k$ 個の多角形に分割することが出来るとき, $2$ 以上の整数 $k$ としてありうる最小値を求めよ.
- 分割によって出来た $k$ 個の多角形について, どの $2$ つを選んでも完全な相似である.
まず $k=2$ で条件を満たすような分割が存在したと仮定し矛盾を導く. 正方形をの各頂点を $A,B,C,D$ とし, 分割した折れ線の両端を $X_0$ と $X_n$ とし, 折れ線を $X_0X_1X_2\cdots X_n$ とする. 明らかに $X_0\neq X_n$ であり, $X_0$ と $X_n$ はともに正方形の頂点または周上にある. ここで, 分割によって出来た $2$ つの多角形は辺の数が等しい必要があり, それぞれの辺の本数は $n$ に正方形の周上にあたる線分の本数を足したものに等しい. したがって, これを踏まえると, $X_0=A,X_n=C$ の場合と, $X_0$ が辺 $AB$ の中途に, $X_n$ が辺 $CD$ の中途にある場合のみを考えれば良いことが分かる.
ここで $2$ つの多角形においてそれぞれ最も長い辺について考える. 正方形の一辺の長さを $r$ とし, \[s=\max\lbrace X_0X_1,X_1X_2,\cdots,X_{n-1}X_n\rbrace\] とおく. $r\geqq s$ のとき, 最長辺の長さは双方の多角形において $r$ である. また $r\lt s$ のとき, 最長辺の長さは双方の多角形において $s$ である. したがって, いずれの場合も $2$ つの多角形は完全な相似にはならないことが示された.
次に $k=3$ での構成を提示する. $f(x)=x^3-x^2+2x-1$ とすると, $f(0)=-1,f(1)=1$ より方程式 $f(x)=0$ は $0\lt x\lt1$ の範囲に解を少なくとも $1$ つ持つから, この解を $t$ とおく. 正方形 $ABCD$ の一辺を $t^2+1=t^3+2t$ とし, 線分 $AB$ 上に点 $P$, 線分 $BC$ 上に点 $Q$, 線分 $DA$ 上に点 $R$, 線分 $RQ$ 上に点 $S$ を \[BQ=AR=t,\ BP=QS=1\] となるようにとり, 線分 $QR$ と線分 $PS$ で正方形を分割する. こうして得られる $3$つの長方形は, すべて縦と横の比が $1:t$ であり, またどの $2$ つも合同ではないから, これは条件をみたす. 以上より, 求める最小値は $k=3$ である.
宿田の感想. 抽象的な問題だからこそ一発で終わらせたい!と思い脳内で色々やっていたら降ってきました. 紙と鉛筆を使わない方が思いつきやすい発想も案外あります. 詰まったとき, おすすめです.
平山の感想. 問題を見た瞬間に $3$ の構成が瞬時に降りてきたのでコメントがしづらい. さすがに $2$ で無理そうなことは直感で分かりますが, 非常に醜い示し方をしてしまったので解答例は綺麗ですごいと思います. 組み合わせ幾何はどうせ疎かにしても大丈夫だろうと思って最後までロクに何の対策もしなかったらIMOで痛い目に遭ったりしたので, どの分野もちょっとはやりましょう. かといって, 一定の対策をしたところであの6番で2点以上取れた気はしないけれど…
平石のコメント. 組み合わせの問題を作ろうとして作りましたが, まあ幾何ですね. まず $3$ での例を思いつくことからですが, ここができないと答えの予想が立たないのでここは何とか思いつきましょう. ところで解答で出しているもの以外の構成は見つかっていないのですが, 何かあるんですかね. 他の構成を見つけたとか, これしかないことを証明したとかあれば, ぜひご連絡ください. そして $2$ でできないことの証明ですが, $2$ つに分割できたとして, それぞれの図形の何に注目して矛盾を導くか, ということが大きなポイントになります. 解答では恐らく最短であろう議論を紹介していますが, その他にも証明は色々考えられると思います. ちなみに, この問題で「有限本の線分」という条件を入れていますが, 無限本の線分の使用を認めれば $2$ の場合でも構成できます. これもぜひ考えてみてください.
正の整数に対して定義され, 正の整数値をとる関数 $f$ であって, 任意の正の整数 $m,n$ に対して \[\frac{mf(m)-f(n^2)}{f(m)+n}\] が整数となるようなものをすべて求めよ.
求める関数は $f(x)\equiv x$ であることを示す. これは明らかに与式をみたす. 与式を $P(m,n)$ とおく.
解法1. 以下より, 与条件は $\frac{mn+f(n^2)}{f(m)+n}$ が整数であることと同値であるから, 以下これを $Q(m,n)$ とおく. $$\frac{mf(m)-f(n^2)}{f(m)+n}=m-\frac{mn+f(n^2)}{f(m)+n}$$
まず $Q(4,2),Q(4,1),Q(1,2)$ を考えて $f(1)=1$ が分かる. $p$ を素数として $Q(p-1,1)$ を考えると, \[Q(p-1,1)=\frac{p}{f(p-1)+1}\] となる. 分母は $p$ の約数かつ $2$ 以上なので, $p$ である. したがって任意の素数 $p$ について $f(p-1)=p-1$ が成り立つ.
次に十分大きい素数 $p$ に対し $k=p-1$ とおくと, $f(k)=k$ より以下が従う. \[Q(k,n)=\frac{kn+f(n^2)}{k+n}=n+\frac{f(n^2)-n^2}{k+n}\] ここで $k$ を十分大きくとったことから, $f(n^2)=n^2$ が必要である.
最後に $q>f(m)$ なる素数 $q$ について, $Q(m,q-f(m))$を考える. \[Q(m,q-f(m))=\frac{(q-f(m))(q+m-f(m))}{q}\] ここで $0\lt q-f(m)\lt q$ より, $q-f(m)$ は $q$ の倍数ではない. したがって $q|(m-f(m))$ が言えるが, $q$ はいくらでも大きく取れることから, 任意の正整数 $m$ について$f(m)=m$ であることが示された.
解法2. $f(n^2)=n^2$ を示すところまでは解法1と同様である. このとき \[Q(m,n)=\frac{mn+n^2}{f(m)+n}=n+m-f(m)+\frac{f(m)(f(m)-m)}{f(m)+n}\] $n$ を十分大きくとることで $f(m)(f(m)-m)=0$ が分かり, 特に任意の正整数 $m$ について $f(m)=m$である.
解法3. 解法1.と同様にして $f(1)=1$ が分かる. ある $m_1,m_2$ について $f(m_1)=f(m_2)(=a)$ と仮定すると, \[P(m_1,n)-P(m_2,n)=\frac{am_1-f(n^2)}{n+a}-\frac{am_2-f(n^2)}{n+a}=\frac{a(m_1-m_2)}{n+a}\] これは整数であるので, 十分大きい $n$ をとることで $m_1=m_2$ が分かる. したがって $f$ は単射である.
以下, 数学的帰納法により, 任意の正整数 $m$ について $f(m)=m$ であることを示す. $m=1$ の場合は示されているから, ある $k\geqq 1$ について任意の $m\leqq k$ で $f(m)=m$ であったと仮定する. $Q(k+1,1)=\frac{k+2}{f(k+1)+1}$ を考えることで $f(k+1)\leqq k+1$であり, かつ任意の $m\leqq k$ について $f(k+1)\neq f(m)=m$ であることから, $f(k+1)=k+1$ が必要である. 以上より, $k+1$ の場合も示され, 特に任意の正整数 $m$ について $f(m)=m$ であることが示された.
宿田の感想. 「分子を素数にする」という手筋を素直に試したら終わりました. 高度典型だと思います.
平山の感想. 教育的!このタイプのFEで抑えておきたい点が綺麗に包含されています. 今回は特に $f(n^2)$ が明らかに重すぎるのでまずはここの処理を考えよう, みたいな発想を初手で持つのが大切です. これが5~10分くらいで解けるようになれば一流でしょう. ただ単射で瞬殺なのか… このタイプで単射性とかあまり考えたことが無かったので驚きました.
平石のコメント. かなり普通の整数論の関数方程式です. 普通すぎて本当に文化祭で出された問題か?と思うぐらいにすごく普通の問題です. でも結構教育的な問題だと思います. 作ったときにもそう思いましたが, 平山がそう言ってるので間違いないと思います. 離散型の関数方程式では, むりやり素数を作ってみる, 無限に飛ばしてみる, 帰納法を使う, などの考え方が有効な手段になりやすいです. この問題でもよくある手段を試してみれば解けるので, そういう意味で結構良い練習問題になったと思っています.
$0$ 以上の実数 $a,b,c$ が $a+b+c=1$ をみたすとき, 以下の式のとりうる最大の値を求めよ. \[\sqrt{\frac{a}{2}+bc}+\sqrt{\frac{b}{2}+ca}+\sqrt{\frac{c}{2}+ab}+\frac{a^2+b^2+c^2}{2}\]
$(a,b,c)=\left(\frac{1}{2},\frac{1}{2},0\right)$ とすれば与式の値は $\frac{7}{4}$ となる. 以下, 与式が $\frac{7}{4}$ 以下であることを示す.
解法1. 相加・相乗平均の関係より, 以下の不等式が成り立つ: $$\frac{1}{4}+\frac{a}{2}+bc\geqq 2\sqrt{\frac{1}{4}\left(\frac{a}{2}+bc\right)}=\sqrt{\frac{a}{2}+bc}$$ これを第 $1$ 項から第 $3$ 項のそれぞれに適用して, 以下の不等式を得る.
\begin{eqnarray} &\ &\sqrt{\frac{a}{2}+bc}+\sqrt{\frac{b}{2}+ca}+\sqrt{\frac{c}{2}+ab}+\frac{a^2+b^2+c^2}{2} \\ &\leqq& \left(\frac{1}{4}+\frac{a}{2}+bc\right)+\left(\frac{1}{4}+\frac{b}{2}+ca\right)+\left(\frac{1}{4}+\frac{c}{2}+ab\right)+\frac{a^2+b^2+c^2}{2} \\ &=&\frac{3}{4}+\frac{a+b+c}{2}+\frac{(a+b+c)^2}{2}\\ &=&\frac{3}{4}+\frac{1}{2}+\frac{1}{2}=\frac{7}{4} \end{eqnarray}
備考. この解法ではAM-GMを用いているが, 特に $2$ 変数のAM-GMは $\left(\sqrt{s}-\sqrt{t}\right)^2$ の展開から得られることを踏まえ, 用いたAM-GMをすべてそのような形に書き直すと, 以下のような最強の天下り答案が出来上がる.
解法2. 与式を式変形することで, 以下の不等式を得る.
\begin{eqnarray} &\ &\sqrt{\frac{a}{2}+bc}+\sqrt{\frac{b}{2}+ca}+\sqrt{\frac{c}{2}+ab}+\frac{a^2+b^2+c^2}{2} \\ &=&-\left(\sqrt{\frac{a}{2}+bc}-\frac{1}{2}\right)^2-\left(\sqrt{\frac{b}{2}+ca}-\frac{1}{2}\right)^2-\left(\sqrt{\frac{c}{2}+ab}-\frac{1}{2}\right)^2+\frac{a+b+c}{2}+\frac{(a+b+c)^2}{2}+\frac{3}{4}\\ &\leqq& 0+0+0+\frac{1}{2}+\frac{1}{2}+\frac{3}{4}=\frac{7}{4} \end{eqnarray}
解法3. $x=ab+bc+ca$ とおく. Cauchy-Schwarzの不等式より, $$\left(\sqrt{\frac{a}{2}+bc}+\sqrt{\frac{b}{2}+ca}+\sqrt{\frac{c}{2}+ab}\right)^2\leqq 3\left(\frac{a}{2}+bc+\frac{b}{2}+ca+\frac{c}{2}+ab\right)=3\left(x+\frac{1}{2}\right)$$ また, 以下の等式に留意する. $$\frac{a^2+b^2+c^2}{2}=\frac{(a+b+c)^2-2(ab+bc+ca)}{2}=\frac{1}{2}-x$$ これらを用いることで, 以下を得る. $$\sqrt{\frac{a}{2}+bc}+\sqrt{\frac{b}{2}+ca}+\sqrt{\frac{c}{2}+ab}+\frac{a^2+b^2+c^2}{2}\leqq \sqrt{3\left(x+\frac{1}{2}\right)}+\frac{1}{2}-x$$ ここで $f(x)=\sqrt{3\left(x+\frac{1}{2}\right)}+\frac{1}{2}-x$ とおくと, これは $x\geqq0$ で微分可能な関数であり, $$f’(x)=\frac{1}{2}\sqrt{\frac{6}{2x+1}}-1$$ したがって $f$ は $x<\frac{1}{4}$ で増加, $x>\frac{1}{4}$ で減少するので, $x=\frac{1}{4}$ で最大値 $\frac{7}{4}$ をとり, 特に与式は $\frac{7}{4}$ 以下である.
宿田の感想. 等号成立が $a=b=c$ でないことに気づいたのは本当に最後の最後でした. 問8でも書きましたが, 詰まないときは根本からズレている可能性があるので一旦引いて思考をリセットすることも大事です.
平山の感想. 等号成立が $a=b=c$ だと勘違いして悩むのが全員の通った道だと信じています. 不等式でまず等号成立のケースにアタリをつけるのは基本中の基本ですが, 時にはこれを無視して評価に走ってみる必要もありますね. 一定以上の難易度に入れば型を外しに行くことも必要です(しかしもちろん型が身についていなければ型を外すことは出来ない!). しかも一回は凸不等式の向きを逆に適用して解けた気になるという初心者みたいなことをしているので最悪です. 解法3で解いたので少しは頭を使った気になったんですが, この想定解はなんなんでしょう. そういえば不等式で難易度を勘繰りすぎて死ぬパターン, IMOでも見ましたね… 配置でのメタ読みは, 上方にはやめた方が良いのかもしれない. ところで平石が出典や作問者がどうの書いてますが, JMOだろうとIMOだろうと疑わないとダメですよ. 騙されてからでは遅い.
平石のコメント. 大問題作です. 平山にキレられました. この問題を作った背景としては, まず不等式を出そうと突然思い立ちました. もともと多変数のものを作ろうとしてたんですが, 上手いこと作れなかったので, $3$ 変数で作ろうと思いました. しかし, ここで僕の作問魂が良くない方向に燃え上がるのです. 普通の $3$ 変数不等式じゃ面白くないし, 等号成立条件がイコールじゃないやつを作ろう, と思いました. そうすることで, 自動的にMuirheadとSchurでひたすらゴリ押すという手段が塞がれるので一石二鳥です. という訳で, 等号成立に選ばれたのは $(1/2,1/2,0)$ でした. しかし問題の式は対称じゃないと面白くありません. 対称に見せておいて等号成立条件がイコールじゃないから良いのです. という訳で,\[\left(\frac{1}{2},\frac{1}{2},0\right),\left(\frac{1}{2},0,\frac{1}{2}\right),\left(0,\frac{1}{2},\frac{1}{2}\right)\]の全てについて成り立つ等式を考えます. その結果 $a/2+bc=1/4$ が思いつきました. そうと決まれば相加相乗平均にぶち込んで, あとはうまいこと調整すればこの問題の出来上がり. 等号成立条件に気付かせたくなかったので最大値を求めよという問題にしました. この問題から得られる教訓は, 「作問者や出典を見てちょっと常識を疑ってみよ.」
$n$ を $2$ 以上の整数とする.正の整数の組 $(a_1,a_2,\ldots,a_n)$ が孤独であるとは, ある $i$ が存在して $a_{i}\neq b_{i}$ であり, かつ以下の式をみたすような非負整数の組 $(b_1,b_2,\ldots,b_n)$ が存在しないことを表す. \[\dfrac{a_{1}^{2}}{a_2}+\dfrac{a_{2}^{2}}{a_3}+\cdots+\dfrac{a_{n-1}^{2}}{a_n}+\dfrac{a_{n}^{2}}{a_1}=\dfrac{b_{1}^{2}}{a_2}+\dfrac{b_{2}^{2}}{a_3}+\cdots+\dfrac{b_{n-1}^{2}}{a_n}+\dfrac{b_{n}^{2}}{a_1}\]
孤独な正の整数の組 $(a_1,a_2,\ldots,a_n)$ が存在するような $n$ の最大値を求めよ.
求める最大値は $3$ であることを示す. まず $n=3$ のとき $a_1=a_2=a_3=1$ とすると, $b_1^2+b_2^2+b_3^2=3$ をみたす非負整数の組 $(b_1,b_2,b_3)$ は明らかに $(1,1,1)$ のみであることから, $(1,1,1)$ は孤独である.
次に $n\geqq 4$ のとき, 条件をみたす $(b_1,b_2,\dots ,b_n)$ が必ず存在することを, 以下の二つの場合に分けて示す.
$({\rm i})$ $a_1=a_2=\cdots =a_n$ のとき, 以下のように定めれば条件をみたす. \[b_1=b_2=b_3=0,\ b_4=2a_1,\ b_5=b_6=\cdots =b_n=a_1\] $({\rm ii})$ $({\rm i})$ 以外のとき, $a_{n+1}=a_{1}$ とし, 各 $i=1,2,\cdots,n$ について以下のようにおく. \[b_i=|a_i-2a_{i+1}|\]これが与式をみたすことは容易に分かる. また $a_k\neq a_{k+1}$ となるような $k$ をとることができ, このような $k$ について\[a_k\neq |a_k-2a_{k+1}|=b_k\]が成り立つことは容易に確かめられるので, 特に $(b_1,b_2,\cdots,b_n)$ は条件をみたす.
宿田の感想. 一発ゲーの問題ってどんな感想を書いたら良いのでしょう… 日頃の行いを良くすると良いと思います.
平山の感想. どうせそんなに突拍子もないことは出来ません. $b_i=a_i+ka_{i+1}$ とおいて上手く巡回させて消える $k$ を決めようと思ったのが勝ちでした. いざ解答にしてみたら短くなったとしても, 色々な思考を踏んだ上で必然として出てくるものを一発ゲーと断定するのはあまり喜ばしいことではないです. 個人的にはこの問題は結構好きです. 特に全部が等しいケースで例外処理が出るおかげで問題として成立している点が面白いと思います. こういう不意な分岐は好きです. 納得感がある場合分けが発生すると, ちゃんと解けているなという確信がかなり得られます. ―これがお手本の感想.
平石のコメント. 一発ゲーすぎて出そうか悩みましたが, 面白かったので出しました. 本当にコメントしづらいです. コメントしづらいのでこれも作問背景を書こうと思いますが, 実は最初これは次のようなA分野の問題でした:$n$ を $2$ 以上の正の整数とする. 任意の $n$ 個の正の実数 $a_1,a_2,\ldots ,a_n$ について次の不等式が成り立つような, $k$ の最大値を求めよ. $$\frac{a_2^2}{a_1}+\frac{a_3^2}{a_2}+\dots +\frac{a_n^2}{a_{n-1}}\geqq k(a_n-a_1)$$ 初めこの問題を出すつもりだったんですが, この問題には「$n=2$ のときで考えてみて, それを添え字をずらしながら $n-1$ 個足していく」という解法があることを発見し, これちょっと小さい数で試せばすぐ気付けるのでボツにしました. ただその副産物として今回の問題のような等式が成り立つことを見つけたので, そのまま問題にしました. 作問者からはちょっと天下りの思考回路については語れないので, ぜひ他2人のコメントを参考に…っておい宿田, 何だその感想は.
$n$ を $3$ 以上の整数とする. 円周上に $n$ 個の点があり, 時計回りに点 $1$, 点 $2$, $\ldots$, 点 $n$ と名付けられている. また任意の整数 $i$ について, 点 $i$ と点 $n+i$ は同じであるとみなす.
最初にマヤがすべての点に非負整数を $1$ つずつ書き込む. それに対してリゼが次のような操作を有限回行う:
- 整数 $k$ を $1$ つ選ぶ. この時点で点 $k-1$, 点 $k$, 点 $k+1$ に書かれている数をそれぞれ $a,b,c$ とするとき, これらをすべて消し, それぞれ $|a-b|,0,|c-b|$ に書き換える.
マヤの数の書き込み方に関わらず, リゼがすべての点に書かれている数を $0$ にできるような $n$ をすべて求めよ.
求める値は任意の $3$ の倍数でない数であることを示す. 以下, 各時点において点 $i$ に書かれている整数を $a_i$ で表す.
まず, $n$ が $3$ の倍数のとき不可能であることを示す. マヤが点 $1$ に $1$ を, 他の点すべてに $0$ を書いたとする. これに対してリゼがどのように操作をしても, 点番号が $3$ の倍数でない点に書かれた整数の和 \[a_1+a_2+a_4+a_5+a_7+\cdots\] は奇数のままであるので, 特にリゼはすべての点に書かれている数を $0$ にすることはできない.
次に, $n$ が $3$ の倍数でないとき, リゼは必ずすべての数を $0$ にすることができることを示す.
解法1. まず, $|a-b|$ や $|c-b|$ は $\max\lbrace a,b,c\rbrace$ 以下であるから, 任意の操作において \[\max\lbrace a_1,a_2,\cdots,a_n\rbrace\]は増加しない. 以下, 点 $i-1,i,i+1$ の数字を書き換えることを「点 $i$ で操作する」と呼ぶ.
$k$ を正の整数としたとき, すべての整数を $2^k$ の倍数にできることを示す. 特にすべての整数が $2^{k-1}$ の倍数のとき, すべての整数を $2^k$ の倍数にできることを示せば, 数学的帰納法により示せたことになる. またこれは, すべての整数が $2^{k-1}$ の倍数であり, $2^k$ の倍数でないものが $1$ 個以上あるとき, その個数を減らせることを示せば十分である. 以下の証明では, 円周上のすべての整数が $2^{k-1}$ の倍数であるとし, $2^k$ の倍数でない数のことを $k$-奇数と呼ぶことにする.
$({\rm i})$ $a_i$ と $a_{i+1}$ がともに $k$-奇数であるような $i$ が存在するとき:点 $i$ で操作すれば, 必ず $k$-奇数の数を減らせる.
$({\rm ii})$ $k$-奇数が $2$ 個以上あり, $a_i$ と $a_{i+1}$ がともに $k$-奇数であるような $i$ が存在しないとき:$i\lt j$ なる $i$ と $j$ であって, $a_i$ と $a_j$ がともに $k$-奇数で, $a_{i+1},\cdots,a_{j-1}$ がいずれも $k$-奇数でないようなものをとる. このとき $a_{i-1}$ は $k$-奇数でないことに注意する. まず, 点 $i,i+1,\cdots,j-1$ でこの順に操作すると, $a_{i-1},a_{i},\cdots,a_{j-2}$ が $k$-奇数となる. 次に, 点 $i,i+3,\cdots$ と $3$ つおきに操作していくと, $3$ つずつ $k$-奇数が減ることになる. $j-i$ を $3$ で割った余りが $0$ または $1$ のときは, $a_{i},\cdots,a_{j}$ の部分に $0$ 個または $1$ 個の $k$-奇数が残る. $j-i$ を $3$ で割った余りが $2$ のときは $a_{j-2}$ と $a_{j-1}$ が $k$-奇数として残るので, 点 $j-1$ で操作をすれば $k$-奇数を $1$ つにすることができ, いずれの場合もその個数を減らせる.
$({\rm iii})$ $k$-奇数がちょうど $1$ つのとき:$a_1$ が $k$-奇数であるとしてよい. 点 $1,2,\cdots,n-2$ で順に操作すると, 点 $n-2$ 以外はすべて $k$-奇数になる. ここで, $n\equiv 1\ ({\rm mod}~3)$ のときは点 $0,3,\cdots,n-4$ と $3$ つおきに操作をすれば $k$-奇数が存在しなくなる. $n\equiv 2\ ({\rm mod}~3)$ のときは, まず点 $n-1$ で操作をすることで点 $n-1$ と点 $n$ 以外すべて $k$-奇数である状態にする. そして点 $2,5,\cdots,n-3$ と $3$ つおきに操作をすれば, $k$-奇数が存在しなくなる.
以上より, 任意の正の整数 $k$ について, すべての整数を $2^k$ の倍数にできることが示された.
初期状態での $\max\lbrace a_1,a_2,\cdots,a_n\rbrace$ を $M$ とすれば, 冒頭の注意より常にどの整数も $M$ 以下である. したがって, $M\lt 2^k$ なる $k$ についてすべての整数が $2^k$ の倍数となったとき, これらはすべて $0$ であり, 特に題意は示された.
解法2. $A=a_1+a_2+\dots +a_n$ とおく. $A\gt0$ のとき, 必ず $A$ を減少させられることを示せば良い. 以下 $A\gt 0$ とし, $a_k\gt 0$ をみたすような $k$ のうち, $a_k$ の値が最小になるようなものを $i$ とする. 添字は ${\rm mod}~n$ で考える.
$({\rm i})$ $a_{i-1}>0$ または $a_{i+1}>0$ のとき:点 $i$ で操作することで, $A$ を小さくできる.
$({\rm ii})$ $k\neq i$ であって, $a_k>0$ なるものが存在し, かつ $a_{i-1}=a_{i+1}=0$ のとき:$i\lt j$ をみたす $j$ であって, $a_j>0$ であるような最小の $j$ をとる. このとき, 解法1の $({\rm ii})$ と同じ要領で操作を行うことで, $A$ を小さくできる.
$({\rm iii})$ 任意の $k\neq i$ について, $a_k>0$ であるとき:$i=1$ とすれば, 解法1の $({\rm iii})$ と同じ要領で操作をすればよい.
解法3. まず, 正の数が $2$ 種類以上存在するとき, $m=\max\lbrace a_1,a_2,\dots,a_n\rbrace$ を小さくできることを示す.
$a_i=m,0\lt a_{i+1}\lt m$ なる $i$ が存在するとき, 点 $i+1$ で操作することによって $m$ が書かれた頂点の数を減らすことができる. またそうでないとき, $a_i=m,a_{i+1}=a_{i+2}=\dots =a_{j-1}=0,0\lt a_j\lt m$ なる $i,j$ が存在する. このとき, 点 $j,j-1,j-2,\cdots,i+1$ でこの順に操作することで, $m$ が書かれた頂点の数を減らすことができる. これを繰り返して, すべての点に書かれた数が $m$ か $0$ になることは無いので, $m$ が書かれた頂点を $0$ 個にすることができる.
この操作を繰り返すと, 最大値が $0$ になるか, 書かれている正の数が $1$ 種類になる. 前者の場合はそれで完了するため, 後者の場合について考える. $1$ 種類の正の数を $a$ とするとき, $a$ の個数を減らせることを示せば良い.
$({\rm i})$ $a_i=a_{i+1}=a$ なる $i$ が存在するとき:点 $i$ で操作すれば良い.
$({\rm ii})$ $a_i=a$ なる $i$ が $2$ つ以上存在するが, $a_i=a_{i+1}=a$ なる $i$ が存在しないとき:$a_i=a$ とし, $i\lt j$ をみたす $j$ であって, $a_j=a$ であるような最小の $j$ をとる. このとき, 解法1の $({\rm ii})$ と同じ要領で操作を行えばよい.
$({\rm iii})$ $a_i=a$ なる $i$ がちょうど $1$ つのとき:$i=1$ とすれば, これも解法1の $({\rm iii})$ と同じ要領で操作をすればよい.
宿田の感想. 何かしらを特性量として持って, それが増え続ける or 減り続けることを示すのは, 特に操作系の組み合わせであるあるです. 今回は「総和」か「$0$ の個数」だと良いなあと思い手を動かしていたら, 前者が刺さりました. 本選でそこそこ出る特性量一発ゲー枠は部分点を得ることが困難になりがちなので慣れてしまいましょう.
平山の感想. 解法3で解きましたが, 想定からは全く外れていたことに大変驚きました. 個人的にはこれが極め付け自然な気がしたんですけどね…?特に正数を $1$ 種類にするところまでは常に簡単に出来るので, $100\cdots$ のような極端ケースで求める条件の見定めが出来そうなことにも気付きやすいと思います. 解法2はまだ納得感があるけれど, 解法1の視点はすごいと思います. ただ不可能性の証明で解答の不変量に思い至らずまどろっこしいことをしたのは反省ポイント.
平石のコメント. キャラ選択には出題者の推しが反映されています. このコンビは至高です. さて, 話を問題に戻します. 戻すも何も初めから問題の話 $1$ 回もしてないですが… こういった操作を行って数を変えていく類の問題では, 不変な量に注目することで不可能性が示せることが多々あります. 今回もそうで, 偶奇に着目するのはかなりよくある議論です. ですがこの問題では不可能性の証明よりも可能性の証明の方が大変だと思います. もともとこの問題を作ったときは, $1$ と $0$ が並んでいて, $1$ を中心とする連続した $3$ つを入れ替えるという作業を考えていて, そこから考えが色々発展していったので, 僕の想定解としては解法1のようになりました. でも色々と解法はあるみたいで, 宿田と平山からは全く別の解法をもらいました. どうやら正の数を $1$ つにするところまでは $n$ が $3$ の倍数でもできるみたいで, それから全部 $0$ にしようとする段階で $3$ の倍数でないことが生きてくるようですね. あとこの問題では重要な考え方を一つ使っていて, ある非負整数値を $0$ にするのが可能であることを示すときに, 「どんな状態からでも必ず減らすことができる」ことを示せば良い, という議論はしばしば行われます. 今回はそれぞれの解法で, 「$k$-奇数の数」「すべての合計」「最大値」についてこの議論を行っています. こういった議論もぜひ扱い慣れてください.
$AB\lt AC$ なる鋭角三角形 $ABC$ の内心を $I$, 内接円を $\omega$, 外接円を $\Omega$ とし, $\omega$ と辺 $BC,CA,AB$ の接点をそれぞれ $D,E,F$ とする. 点 $K$ を $AK$ が $\Omega$ の直径となるような点とし, $BC$ の中点を $M$ とする. 三角形 $KMD$ の外接円と $\Omega$ の交点のうち $K$ でないものを $P$ とし, $KI$ と $\Omega$ の交点のうち $K$ でないものを $Q$ とする.
このとき, 直線 $AP$ と直線 $DQ$ は直線 $EF$ 上で交わることを示せ.
解法1. $\Omega$ の $A$ を含まない方の弧 $BC$ の中点を $N$, $A$ を含む方の弧 $BC$ の中点を $S$, $EF$ の中点を $R$, $EF$ と $BC$ の交点を $L$ とする. まず, $AK$ は直径より $\angle AQK=90^\circ$ であり, $\angle AEI=\angle AFI=90^\circ$ より五点 $A,E,F,I,Q$ は同一円周上に存在する. よって $\angle AFQ=\angle AEQ$ なので, $\angle QFB=\angle QEC$ が従う.
さらに $\angle FBQ=\angle ECQ$ なので, $\triangle QFB$ と $\triangle QEC$ は相似である. よって \[QB:QC=FB:EC=DB:DC\] なので, $QD$ は $\angle BQC$ の二等分線である. 以上より, $Q,D,N$は同一直線上にある.
次に $\triangle QFB$ と $\triangle QEC$ の相似より $\triangle QBC$ と $\triangle QFE$ も相似であるから, $QBCM$ と $QFER$ は四点相似である. したがって $\triangle QFB$ と $\triangle QRM$ も相似であり, $\angle QBF=\angle QMR$ である. $A,Q,E,F$ と $A,Q,B,C$ の共円より \[\angle QBL=\angle QAC=\angle QFL\] なので $Q,F,B,L$ は共円であり, さらに以下より四点 $Q,R,M,L$ も共円である. \[\angle QLF=\angle QBF=\angle QMR\] ここで $R,I,N$ はすべて $\angle BAC$ の二等分線上にあり, $AR$ と $EF$ は垂直なので, $\angle LRN=90^\circ$ である. また $\angle LMN=90^\circ$ であるから, 四点 $L,R,M,N$ は共円である. 以上より五点 $Q,R,M,N,L$ が同一円周上にあることが分かるので, この円を $\Gamma$ とする. 特にこの共円より, $\angle NQL=90^\circ$ が従う.
いま $S,M,N$ は同一直線上にある. また $SN$ は $\Omega$ の直径なので, $\angle SQN=90^\circ$ である. $\angle NQL$ も直角であるから, $S,Q,L$ は同一直線上にある. ここで $\angle SQD=\angle SMD=90^\circ$ より四点 $S,Q,D,M$ は同一円周上にあり, 方べきの定理より $LS\cdot LQ=LD\cdot LM$ が従う. したがって $L$ において, $\triangle KMD$ の外接円と $\Omega$ に対する方べきの値が等しいことが分かる. よって $L$ はこの $2$ つの円の根軸上にあり, 特に $L,P,K$ は同一直線上にある.
再び $AK$ は直径より $\angle APK=90^\circ$ なので, $\angle APL=90^\circ$ である. また $\angle ARL=90^\circ$ なので, 四点 $A,R,P,L$ は同一円周上に存在する. この円を $\gamma$ とすると, $3$ つの円 $\Omega,\Gamma,\gamma$ の根心を考えることで題意は示された.
解法2. 点の記号は解法1と同様であるとし, 解法1と同様に $A,E,F,I,Q$ の共円, $Q,D,N$ の共線, $QEF$ と $QCB$ の相似, $Q,B,F,L$ の共円まで示されたとする. Menelausの定理より \[\frac{CE}{EA}\cdot\frac{AF}{FB}\cdot\frac{BL}{LC}=1\] であり, $AE=AF$ を用いると $\frac{BL}{LC}=\frac{FB}{CE}$ が分かる. さらに $FB=DB,CD=CE$ なので \[\frac{LB}{LC}=\frac{DB}{DC}\] となる. ここで $LB=b,\ LC=c$とおくと, $LM=\frac{b+c}{2}$ および $$LD=LB+BD=b+(c-b)\cdot\frac{b}{b+c}=\frac{2bc}{b+c}$$ であるので, $LD\cdot LM=bc=LB\cdot LC$ となる. したがって $L$ において, $\triangle KMD$ の外接円と $\Omega$ に対する方べきの値が等しいことが分かる. よって $L$ はこの $2$ つの円の根軸上にあり, 特に $L,P,K$ は同一直線上にある.
次に $QEF$ を $QCB$ に移す相似変換を $f$ とする. $QD$ と $EF$ の交点を $X$ とし, $X’=f(X)$ とする. $AX$ と $\Omega$ の交点のうち, $A$ でないものを $P’$ とする. $f(A)=S$ であることに留意すると, \[\angle BSP’=\angle BAP’=\angle FAX=\angle BSX’\] であるので, $S,X’,P’$ は共線である. $\angle CBA=2\beta,\angle ACB=2\gamma$ とおくと, $$\angle X’P’X=\angle CBA-\angle CBS=2\beta-(\beta+\gamma)=\beta-\gamma$$ $$\angle X’LX=\angle CBA-\angle EFA=2\beta-(\beta+\gamma)=\beta-\gamma$$ より, $X,X’,P’,L$ の共円が分かる. また, $QXF$ と $QX’B$ の相似より $\angle QXL=\angle QX’L$ なので, $Q,X,X’,L$ は共円であり, 以上より $Q,X,X’,P’,L$ の共円が示された.
$Q,B,F,L$ の共円と $Q,D,N$ の共線に留意すると, $$\angle LQX=\angle LQB+\angle BQN=\angle LFB+\angle BAN=\angle EFB+\angle FAN=90^\circ$$ となる. これと $Q,X,P’,L$ の共円より $\angle AP’L$ は直角であり, $\angle AP’K=90^\circ$ より $L,P’,K$ は同一直線上にある. これは $P$ と $P’$ が一致することを意味し, したがって $AP,QD,EF$ は一点 $X$ で交わることが示された.
宿田の感想. $Q$ は誰でも知っている点なので, $P$ が問題です. 内心が出てきているので調和点列が欲しくて, かつMiquel点があるので相似の対応付けを考えたくて, これらの欲求を満たそうとしているうちに9割方終わっていました. 幾何は解法が特に多く出やすいので, 自分の思った方向へとりあえず進んでみると良いと思います.
平山の感想. ほとんど図を眺めているだけで解けました. かつては幾何芸人で通っていたのに成長を感じますね. 知っている構図で結構ショートカット出来たおかげで, 本質的に大量の直角を追うだけで済み, 芋づる式に大量の共円が出てきたので楽しかったです. やっぱり共点問題は適切な円を3つ復元して根心で鮮やかに刺すパターンが楽しいですよね!
平石のコメント. これかなりお気に入りです. 構想から完成まで2ヶ月ぐらいかかってます. 改善に改善を繰り返してこの形になりました. 初め構想を考えたときには次のような問題でした:
$AB\lt AC$ なる三角形 $ABC$ の外接円を $\Omega$ とする. 辺 $AB,AC$ 上にそれぞれ点 $F,E$ があり, $AE=AF$ をみたしている. $AK$ が $\Omega$ の直径となるような点 $K$ をとり, $L$ を $BC$ と $EF$ の交点とする. $KL$ と $\Omega$ の交点のうち $K$ でないものを $P$, 三角形 $AEF$ の外接円と $\Omega$ の交点のうち $A$ でないものを $Q$ とする. $A$ を含まない $\Omega$ の弧 $BC$ の中点を $N$ としたとき, $AP$ と $NQ$ は $EF$ 上で交わることを示せ.
この問題では, 本質となる部分がかなり見える状態になっていて, まず考えている点 $A,P,N,Q$ がすべて $\Omega$ 上にあるので $\Omega$ も含めた根心の議論だろうということが見えやすい形になっています. そこで $E,F$ を内接円の接点という特別な点にすることで $N$ を消し, 代わりに $D$ を使うことにしました. また幾何の問題に関して, 初期状態のごちゃごちゃ感は出来るだけ無いほうが良いと思ってるのですが, $E,F$ の定義を変えたことで, $Q$ を $K,I$ を用いて定義できるようになりました. そこは正直どっちでも良いなと思いましたが, まあせっかく $K$ もあるし $K$ の役割が $P$ の定義で終わるのもなあと思ったので後者で定義しました. もうこれで完成だと思っていたんですが, $L$ が結構本質を見えやすくしているなと思い, $L$ を使わずに $P$ を定義できないかなと思いました. 色々考えた末, 調和点列の構図を上手いこと使って今回の問題のような定義に変えることができました.
そんなこんなでこの問題が完成したわけですが, それぞれの点が自分の役割を全うしている感があって僕自身結構好きな問題です. KAMO2020の最後の問題となりましたが, まあ満足の行く出来といったところですね. 僕にとっては最後のKAMOとなったわけですが, これからの後輩たちにもぜひ頑張ってもらいたいと思っています. 後輩がんばれー!