海陽中等教育学校 数学部によるKAMO 2020の問題および解答・解説を掲載します.
KAMOとは?
こんにちは. ごちすう製作委員会の平石です.
KAMOとは, 私が在籍していた海陽中等教育学校の数学部が文化祭のたびに公開する, すべて部員が作ったオリジナル問題で構成された問題集です. 例年はTwitterで公開を行っていますが, ネットの海に放流したままにするのも勿体ないと思い, 運営権限でごちすうに載せてもらうことにしました. 今回掲載するのは, そのうち2020年11月に公開されたものです.
少し注意していただきたい点として, 根本的にはこれらの問題は当然面白い問題を作ろうという気持ちで作っているわけですが, 「教育的」「実力を測る」といった面はあまり意識しておらず, むしろ「非教育的」「天下り」「悪問」を進んで生み出そうとして誕生した問題も含まれます. また, 必ずしもすべてが数オリの傾向に近い問題とも限りません. 言ってしまえば, これらの問題に取り組むことががすべて数オリの対策になるとは限らない, という話です.
とはいえ教育的な良問やなかなかの自信作も含まれますので, ぜひ暇つぶしにでも挑戦されてみてはいかがでしょうか.
※「解説」欄には平石からの運営目線のコメントと, 部外者として全問を解いた宿田・平山による感想を掲載しています.
問題・解答・解説
ココアは優しいお姉ちゃんになりたいので, チノに先攻か後攻か選ばせてあげることにした. 勝つためにチノは, どちらを選ぶのが良いか.
チノは先攻を選ぶことで, 次のような戦略によって必ず勝つことができる:まず, チノは
宿田の感想. 一番だしそんなに複雑ではないのだろう, と思ったら解けました. テトロミノが全種類出てきてる時点で細かい考察なんて無理ですし, ゲームといえばモノマネ戦法ですし.
平山の感想. パーツ各々の特性を考えてしまって完全にハマりました. 幼稚園児だったころに祖父に初めて将棋を教えられて, 何もわからずとりあえず点対称に行動してみたことを思い出しました(早々に隙間から角を取られて我に返った覚えがあります). 問題の配置から解法の軽重をメタ読みするのも時には大切でしょう(考えすぎは良くない). とはいえ, 実は縦横の長さが偶数なことが本質ですし, この問題みたいな発想が初めから引き出しに無いと割と厳しいような気もします.
平石のコメント. 中3の後輩からの問題です. かなりオーソドックスなゲームの問題です. 二人が行動できなくなったら負け, というゲームの必勝法を考える問題では, 「相手を詰ませる」よりも「自分が必ず行動できる」という視点を持つと上手くいくことが多いです. その中でも今回登場した「相手と同じ行動をとる」戦法は特にベタ中のベタと言って良いでしょう. 様々な問題で似たような考え方が登場するのでぜひ抑えておきましょう.
解法1.
辺々差をとることで
辺々差をとることで
解法2.
ここで
宿田の感想. やることをやったら終わりました. 典型です.
平山の解法. 解法2で解いたので少しは頭を使った気になったんですが, 不等式評価だけで終わるのか…それはそうか.
平石の感想. 高2の後輩からの問題です. こちらも典型的な整数論です. 「
鋭角三角形
解法1.
また
解法2. 以下より五点
宿田の感想. 共点問題は「二つの交点を取って, その交点をもう一つが通る」ことを示すのが定石ですが, 今回は共点となる点を最初に特徴づける (
平山の感想. 解法2です. 一瞬で直角が大量に見えたので終わりでした. むしろこれが想定じゃなかったことに驚いた.
平石のコメント. 比較的簡単めな幾何として結構良い問題ができたんじゃないかと思っています. 想定解は解法1だったんですが, 解いてくれた人は解法2ばかりでした. 確かに, と思いました. 作問背景としては, フリーハンドで図を描いて遊んでたら何か成り立ちそうだと思って, 実際に考えてみたら成り立ったのでそのまま問題にしました. 幾何の問題って結構そうやって生まれますよね. 恐らく交わる一点が
相異なる
- 任意の
なる整数 について, 三辺の長さが であるような鈍角三角形が存在する.
ただし,
求める最大値は
以下
三角形の成立条件より
これらより以下の不等式を得る.
よって, 以下より矛盾を導く.
備考. 別解というほどではないが,
宿田の感想. 鈍角三角形であるという条件が簡単に言い換えられるのでそこから始めました.
平山の感想. 宿田の感想にもう全部書いてありますね. この問題は一体なんなのでしょう. これは教育的なのか…?
平石のコメント. これは問題を先に考えて後で解いた形になるんですが, JJMOの2番とかに出てもおかしくなさそうです. 答えの予想を立てながら実験しつつ定めていく感じになるので, あまり慣れていない人は手こずったかもしれません. あとは出てくる条件で何が一番厳しくて, どの条件を扱えば良いか, という視点は大事ですね.
非負整数
以上より, 求める値は
宿田の感想. 色々な
平山の感想. 問題を見た瞬間に何も考えず解答の場合分けまでは到達してください. 問題は
などと, せっかく教育的側面をフォローしたのに, 作問背景が酷すぎますね. フォロー撤回してもいいですか?
平石のコメント. 最初の問題作です. 最初の一手はベタなので
正三角形
解法1. 条件より直ちに
解法2.
さらに
宿田の感想. 最初は複素で倒したのですが, 平山に脅されたので初等で解き直しました. 怖いですね. 作図に使った線を残すことで見つけられる補助線や補助点は意外にたくさんあるので, 作図は面倒がらずに正確にしましょう.
平山の感想. 解いたときに何を思っていたか忘れたので改めて自分の解答を見たら, 何の前触れもなく点
平石のコメント. 一発ゲーですが, 宿田によると複素計算がかなり楽だとか. 確かに楽そうではありますね. 確かめてはいません. この解法1はまあ確かに点
任意の正の実数
解法1. 平面上に以下をみたすような点
解法2. まず以下の不等式に留意する.
宿田の感想. 個人的には典型だと思います. 見て0.5秒で倒れました……
平山の感想. 全く同じ問題を中1とかで知って驚いた記憶があります. 『美しい不等式の世界』で見たんだと思います.
平石の感想. 2番と同じく高2の後輩が出してきたんですが, 平山と宿田にド典型だろうと言われ, 難易度1が付きました. 僕は見たことありませんでした. まあ1問ぐらいそういうのがあっても良いのです. 一度は解くべき問題ということで. ルートばかりの不等式はなかなか多項式にして潰すということがしづらいのですが, 解法2のように
ある
次に
以下
次に収束値が
宿田の感想. 受験数学の典型問題だと思ってグラフを書いても実験しても全然収束しなくて焦りました. 詰まないときは根本からズレている可能性があるので一旦引いて思考をリセットすることも大事です.
平山の感想. とりあえずグラフに折れ線を書き込んで考えたのが僕だけじゃなくて安心しました. でも勘の良い人なら式を見た瞬間に三角関数で置換する定番だと気付けてもおかしくない気はしました. 解答例の後半は何やら大変なことになっていますが, Kroneckerの稠密定理を知っていればその要領で片付くと思います.
平石のコメント. これは中3の後輩からもらったんですが, なかなかびっくりしました. 最初は「いやこれ大学受験でよくあるやつじゃん, グラフ書いて縦横に線引いていったら収束するやつでしょ」と思って解き始めたんですが, 驚いたことに全然収束してくれないんですよね. それで意外に振動する値が多いのかなと思い, ちょっと引き返して式とにらめっこしていると, 解答のような置換が思いつきました. 見た目の第一印象からは想像できない議論と結論に至る, なかなか良くできた問題です. ただ, 本質に気づいてからの議論が非常に面倒くさかった. このような収束を示すというのは大学受験の勉強しててもまず出てこない議論なので, そこからちゃんと示しきるのにはかなりの時間がかかりましたが, 何とか終えました. 極限の厳密な定義を知らないといけないので, まあ高校範囲は超えていると思って良いですね.
- 分割によって出来た
個の多角形について, どの つを選んでも完全な相似である.
まず
ここで
次に
宿田の感想. 抽象的な問題だからこそ一発で終わらせたい!と思い脳内で色々やっていたら降ってきました. 紙と鉛筆を使わない方が思いつきやすい発想も案外あります. 詰まったとき, おすすめです.
平山の感想. 問題を見た瞬間に
平石のコメント. 組み合わせの問題を作ろうとして作りましたが, まあ幾何ですね. まず
正の整数に対して定義され, 正の整数値をとる関数
求める関数は
解法1. 以下より, 与条件は
まず
次に十分大きい素数
最後に
解法2.
解法3. 解法1.と同様にして
以下, 数学的帰納法により, 任意の正整数
宿田の感想. 「分子を素数にする」という手筋を素直に試したら終わりました. 高度典型だと思います.
平山の感想. 教育的!このタイプのFEで抑えておきたい点が綺麗に包含されています. 今回は特に
平石のコメント. かなり普通の整数論の関数方程式です. 普通すぎて本当に文化祭で出された問題か?と思うぐらいにすごく普通の問題です. でも結構教育的な問題だと思います. 作ったときにもそう思いましたが, 平山がそう言ってるので間違いないと思います. 離散型の関数方程式では, むりやり素数を作ってみる, 無限に飛ばしてみる, 帰納法を使う, などの考え方が有効な手段になりやすいです. この問題でもよくある手段を試してみれば解けるので, そういう意味で結構良い練習問題になったと思っています.
解法1. 相加・相乗平均の関係より, 以下の不等式が成り立つ:
備考. この解法ではAM-GMを用いているが, 特に
解法2. 与式を式変形することで, 以下の不等式を得る.
解法3.
宿田の感想. 等号成立が
平山の感想. 等号成立が
平石のコメント. 大問題作です. 平山にキレられました. この問題を作った背景としては, まず不等式を出そうと突然思い立ちました. もともと多変数のものを作ろうとしてたんですが, 上手いこと作れなかったので,
孤独な正の整数の組
求める最大値は
次に
宿田の感想. 一発ゲーの問題ってどんな感想を書いたら良いのでしょう… 日頃の行いを良くすると良いと思います.
平山の感想. どうせそんなに突拍子もないことは出来ません.
平石のコメント. 一発ゲーすぎて出そうか悩みましたが, 面白かったので出しました. 本当にコメントしづらいです. コメントしづらいのでこれも作問背景を書こうと思いますが, 実は最初これは次のようなA分野の問題でした:
最初にマヤがすべての点に非負整数を
- 整数
を つ選ぶ. この時点で点 , 点 , 点 に書かれている数をそれぞれ とするとき, これらをすべて消し, それぞれ に書き換える.
マヤの数の書き込み方に関わらず, リゼがすべての点に書かれている数を
求める値は任意の
まず,
次に,
解法1. まず,
以上より, 任意の正の整数
初期状態での
解法2.
解法3. まず, 正の数が
この操作を繰り返すと, 最大値が
宿田の感想. 何かしらを特性量として持って, それが増え続ける or 減り続けることを示すのは, 特に操作系の組み合わせであるあるです. 今回は「総和」か「
平山の感想. 解法3で解きましたが, 想定からは全く外れていたことに大変驚きました. 個人的にはこれが極め付け自然な気がしたんですけどね…?特に正数を
平石のコメント. キャラ選択には出題者の推しが反映されています. このコンビは至高です. さて, 話を問題に戻します. 戻すも何も初めから問題の話
このとき, 直線
解法1.
さらに
次に
いま
再び
解法2. 点の記号は解法1と同様であるとし, 解法1と同様に
次に
宿田の感想.
平山の感想. ほとんど図を眺めているだけで解けました. かつては幾何芸人で通っていたのに成長を感じますね. 知っている構図で結構ショートカット出来たおかげで, 本質的に大量の直角を追うだけで済み, 芋づる式に大量の共円が出てきたので楽しかったです. やっぱり共点問題は適切な円を3つ復元して根心で鮮やかに刺すパターンが楽しいですよね!
平石のコメント. これかなりお気に入りです. 構想から完成まで2ヶ月ぐらいかかってます. 改善に改善を繰り返してこの形になりました. 初め構想を考えたときには次のような問題でした:
この問題では, 本質となる部分がかなり見える状態になっていて, まず考えている点
そんなこんなでこの問題が完成したわけですが, それぞれの点が自分の役割を全うしている感があって僕自身結構好きな問題です. KAMO2020の最後の問題となりましたが, まあ満足の行く出来といったところですね. 僕にとっては最後のKAMOとなったわけですが, これからの後輩たちにもぜひ頑張ってもらいたいと思っています. 後輩がんばれー!