この記事では、JMO本選について、執筆陣の経験談やアドバイスなどをまとめています。お役に立てると幸いです。
兒玉
本選から記述式になります。これは予選との大きな違いです。
序盤の問題は記述をきちんと書くようにしましょう。二次不等式を満たす整数を求める過程を書かなかったことで減点された事例があります。
解答はどこまで丁寧に書けばいいのか疑問に思う人は多いと思います。 概ね、「解答全体から見てどのくらいの割合を占める議論なのか」で判断するといいでしょう。 序盤の問題は簡単で手数の少ない問題が多いので、例えば「二次不等式を満たす整数を求める」という議論の全体の議論に占める割合が大きくなります。 一方で難しい問題となると、簡単な手筋はそこまで割合を占めないでしょう。 詳しい情報については採点者しか知りませんが… 不安に思えば書いておくのが無難でしょう。
時間によほど余裕がない場合は別ですが、一度、雑でもいいので解答の下書きを書くのが良いでしょう。 論理の組み立てが整理されて見やすい解答になりますし、また解答が簡潔になった結果、解答を清書する時間が短くなり総合的に時短になる場合もあります。 特に本選の場合は、使える解答用紙は1問あたりB4の裏表だけですから、整理した解答を書くのは重要です。
記述をきちんと書こうと言いましたが、案外それは難しいものです。 きちんと答案を書いたと思っても大きな論理的なギャップがあったり、間違った主張(いわゆる「嘘」)をしたりすることは多いです。 しかし、そのような「嘘」を減らすにはどうすればよいか、個人の質問箱でもよく質問が来るのですが、自分でもよくわかっていません。 私もよく嘘つきますし。
嘘を減らす方法として、
- 具体例を考え、自分の解法がきちんとその具体例に合致しているかを確かめる
- 反例を考え、自分の解法がきちんとその具体例に合致しないかを確かめる
- 寝かす、後で見る
などの方法があります。
また、典型的なミスや嘘議論を知っておくのも重要かもしれません。
- 場合分けのミス(ある場合を忘れているなど)。これが一番多い気がします。注意しましょう。
- 幾何で、ある直線とある直線が平行になって交点が取れないなどの例外ケースを忘れないように。
- 0で割ったり、負の数を掛けるときに不等式を逆にし忘れたりしてませんか?変数の形だと忘れがちです。
- 変数がどの変数に依存しているかを把握しましょう。独立でない変数を独立に動かしてはいけません。
- 組み合わせや数列などの、なにかを最大・最小にする問題で、貪欲法(その場その場での最善の手を打つ方法)が最適だとは限りません。 そういう最適化系の問題は、最適な値を求めることよりも、それが最適であることを示すほうが本質であることが多いです。そんなに簡単ではありません。
- 最適化系の問題で、最適な場合の構成を忘れずに。
- 関数方程式において、
- 関数は、連続であるとは限らないし、ましてや多項式とは限りません。 (流石に多項式だと勝手に仮定する人はいないと思うでしょ?いるんですよ…)
- 「$\forall x, f(x)^2=x^2$」から、「$\forall x, f(x)=x$ または $\forall x, f(x)=-x$」を導くことはできません。 例えば $f(x)=|x|$ もこれを満たします。
- 十分性の確認。すなわち、解を求めたあと、その解がきちんともとの方程式を満たすか確認する必要があります。
読みやすい答案を作るコツとして、
- 背理法で何かを示す場合、「~~と仮定して矛盾を示す。」から始め、「~~となり矛盾し、したがって~~が示された。」と終えるのが良いです。 というのも、始めをはっきりさせないと、どこから仮定の話かわかりにくいですし、 終わりで示したことを明記することで、結論がすぐに分かって読みやすくなるためです。
- 補題を適切に作ると、解答にメリハリが付きます。
採点について、
- 前にも書きましたが、得点や減点は「解答全体から見てどのくらいの割合を占める議論なのか」で判断されている気がします。
- 幾何で計算する場合、完結したり、なにかMarking Scheme(ここまで解けたら何点、という基準)にあるような補題を示したりしていなかった場合は概ね0点らしいです。
代表選考合宿やIMOなど解答用紙が無限に使える場合のテクニックはまた別に書こうと思います。
試験後は毎年SNSが盛り上がります。SNSを見ても結果が変わることはありません。いつものように気にしないようにしましょう。 本選の場合は特に。思ったよりきちんとした答案を書ける人は少ないので。
宿田
1. 解き方一般
JMO本選ではピンポイントで手法を一個聞いてくるという問題の出題頻度が高いので、色々な手法を試してみたり、メタ読みをしたりすると良いと思います。 とは言っても全ての基本は「実験をする」「正確に大きな図を書く」「結論から遡る」などです。普段当たり前にできることが本番では焦ってできなくなりがちなので、手が動かない時は基本に忠実に。 本選に向けた勉強としては、幅広く手法を色々さらっておくのがオススメです。まあ結局は問題を色々解くのが一番であることに変わりないんですけどね。
2. 「点数」の取り方 - 部分点
分かったことは予想も事実も全て書く(後者は証明を含め)。 せっかく一問につきB4両面の解答用紙が与えられるのですから、足掻けるだけ足掻きましょう。
3. 「点数」の取り方 - 完答
部分点を取ることも大事ですが、それより解けている問題でしっかり満点を取ることの方がもっと重要です。減点は思いの外ダメージが大きいので、自分の答案は何回か必ず読み返し、模範解答レベルとまでは言わないので、添削(実質添だけですが)をすることを強く推奨します。 問題が全然解けない時こそ解けている問題を確実に。
4. 戦略(解き方以外)
試験時間は“たったの”4時間ですから、時間に追われます。だからこそ、焦った結果勘違いをしたり議論が甘く嘘を書いたり説明が足りなさすぎたりしがちなので、落ち着きましょう。 (以下は個人差があるので、自分に合っているかどうかは各自で判断してください) 予選と違って問題数が少ないので、タイムスケジュールを予め細かく決めておくのは、それを守れなかった時に焦りが生まれるのであまり推奨しません。が、「見直しを一問につき〇〇分は必ずする」「〇〇の〇〇分野は必ず〇〇分は考える/〇〇分進まなかったら一旦別の問題に行く」のような事を、時間を測って過去問演習をする中などで決めておくことをオススメします。
5. 分野別コメント
不等式
今時出るんですかね、出ないだろうと書くと万が一出た時のクレームが怖いのでノーコメントで。
関数方程式
部分点の取りやすさNo.1(※あくまで個人の感想です)ですが、粘ればいくらでも点数が伸びそうに思えて、明らかに良くない粘着をしがちなので注意しましょう。
数列
数列大好きマンっているんですかね、皆苦手ですよね。特にコメントする事はないです。
組み合わせ
減点されやすさNo.1(※あくまで個人の感想です)です。答案を書く際は感覚的な部分をできるだけ潰してください。
幾何
座標計算をする時は覚悟を持って始めてください。ここで言う覚悟とは「計算し切れると確信すること」「解答欄のスペースは足りるかどうかを判断すること」「どれくらい計算が複雑で、どれくらい時間がかかるかを見積もること」「部分点が基本降らないという事実を踏まえること」「以上を踏まえた上で、座標計算をすることが今最適な行動であると判断すること」です。春やIMO型の試験と違って時間が少ない上に問題数が多いので、いつもと時間の感覚が違うことに注意してください。
整数論
嘘のつきやすさNo.1(※あくまで(以下略))です。見直しの際は勘違いをしていないかどうかのチェックにも慎重になると良いと思います。
平石
まず初めに断っておきますと、僕のJMO本選の戦績は1勝2敗です。僕は数オリの中でもJMO本選の形式を苦手としており、結果にブレが生じます。これは何故かというと、僕は基本的にGを大きな武器としており、AやNを苦手としているのですが、これが非常に極端なんです。JMO本選は問題数が5問と非常に少なく、分野の偏りについても何も保証されていません。そのため僕の戦績は運でかなりブレます。実際僕の2敗はどちらも幾何が2番にだけ出てきた回で、1勝は幾何が4番に出てきた回です。てなわけで、JMO本選は得意不得意に左右されやすいです。そのため本選はオールマイティーな人が強く、本選対策をするなら苦手分野を重点的にやるのが良いでしょう。
次に本番についてです。形式は4時間5問。時間はたっぷりあるように見えて意外と少ない。問題は基本難易度順という体にはなっているのだろうと思いますが、皆さんご存知の通り、自分達が作った問題の難易度判定はかなり狂います。あくまで運営側が決めた問題順であることを忘れないようにしましょう。特に1番は要注意。僕は中3のときのJMO本選で1番に殺されました。JMO本選の1番は「難易度が低い」という場合もありますが、「手数が少ない」だけで1番になっていることもあります。作問者はこれが一手で解けると知っています。こんな一手で終わる問題簡単だろうって思ってます。でもそれがむしろ難しいことはいくらでもあります。過去のJMO本選で爆弾と呼ばれる1番はたくさんあります。1番だからといって拘泥して残りの問題を見なかった、なんてことがないようにしましょう。
次にこれは予選と同じですが、分野の得意苦手で問題を判断しすぎないように。たとえば1番と2番が解けた。5はちょっと見当もつかなそうだし3と4のどっちを解くか。3は苦手分野で4はまあ得意とも苦手とも言えない分野。まあ3は分からんだろうから4に全振り。結局4は解けませんでした。蓋を開けてみたら4はすごく難しかったらしい。3は帰って考えてみたら普通に解けちゃった。……もったいないですよね。どの問題に時間を多くかけるかは戦略次第で、これは本当に個人によりすぎるので一概に言えることが全然無いのですが、どの問題もちょっとは考えてみること、というのはどんな人にも通用すると思っています。あとは色々やって練習してください。それが一番です。
続いて記述について。まず、解けなかった問題でも考察したこと何でも書いてみましょう。全然先が見えなかったとしても1点か2点入るかも。それに加えて僕が行っているのは、解けた問題の解答を書く前に、一旦計算用紙に論理の流れを書いて整理してみることです。また、前半に解けた問題は、すぐに解答を書かずに先にほかの問題を考えてみたり、トイレに行くなどして、とにかく一旦気分転換します。これらのことは何に有益かというと、1回落ち着いてからもう一度見直すことで嘘主張をしていることに気付ける、ということです。解けたと思った瞬間は嬉しさで冷静さを欠いていることが多々あります。だから僕は落ち着いて自分の証明を見直すようにしています。
ここまで書いてきたのは僕個人がやっていたことなので、参考になるかは分かりません。過去問などを解く過程で自分にあったスタイルを見つけてください。最後に、細かいアドバイスをいくつか。
- コンパスと定規は必須。持ち物チェックは受験票、筆記具、コンパス定規、時計。
- 1.でさらっと書きましたが時計もあった方がいいです。
- 解答用紙に図を描くときもコンパス・定規を使って大丈夫です。ちなみに僕はフリーハンド派ですが。
- 全然解けないときのトイレも有効。ハマってるときは気分転換しましょう。
- 問題が入ってる封筒、切り開くと計算用紙になります。
- 関数方程式や整数論の不定方程式などは、考えてなくても思いついた解をとりあえず全部列挙しておきましょう。
- 関数方程式の十分性の確認を忘れないこと。
- 甘い系の飲み物だけだと喉が渇くので水かお茶の用意を薦めます。
さて、あとは自分を信じて問題を楽しむことです!頑張ってください!
平山
本選で最大のアドバイスはやはり「問題をエスパーしていくこと」です。私は自身最後となる2020年の本選に臨む直前、問1で平方数の離散性を利用した不定方程式が、問2でMiquel点の構図が適用できる幾何の出題を予想していきました。結果として、これらの予想はドンピシャであり、おかげさまで私は開始から数分にして16点の獲得を約束されました。加えて関数方程式の出題も予想していたため、セットを目の当たりにしたときはまるで見たことがあるかのようでした。
と、茶番はさておき(経験談は実話ですが)。3年連続でぬるっと優秀賞を取り続けた私は、JMO本選での大きな成功体験も失敗体験もなく(中2で1回落ちていますが、これはあまりに順当なので失敗という感は薄いです)、したがって偉そうに語れることも多くはありません。メダルを何枚も取ってきた偉大なる同僚たちのアドバイスをしっかり参考にしてほしいですが、私からも私なりに伝えられることを遺しておきます。以下、「平均的」な難易度のセットを前提に話を進めます(2014年のように非常に簡単な回も、打って変わって2015年のように非常にタフな回もありますが、5問しかない以上ブレるのは仕方がありません。あまりアテにはしすぎないようにしてください)。
基本的にボーダーが2完~3完のどこかである本選において、2番級までをあまり労せず片付けられることは大前提と思った方が良いです。2番級と3番級の間の壁は安定して高いです。2番級以前で苦労する確率が高い分野は、要するに「穴」ですから、これを抱えると一気に厳しくなります。もちろん1,3,4番級を完答して入賞というような稀有なケースもありますが、これは他の分野が相当に固まっていないとあり得ないので、まず存在しないと思った方が良いです。もし2番級以前が確実ではないという自覚があるならば、背伸びして中~高難易度の演習に走らず、まずは基本の地固めを徹底したほうがいいでしょう。代表選考合宿レベルでも、実は1番級の出来がそのまま最終結果に直結していたりします。難易度の高い問題は基礎がちゃんとすれば気が付いたらある程度解けるようになっていますから、焦ってはいけません。
結局のところ本選で最も大切なのは、2番級までをいかに早く片付けるかです。本選というのは結局は、3番級と4番級のうち得意な方をじっくりと倒すゲームです(メダルを確実に目指すなら両方で有意な仕事を求められることになりますが)。4時間半で3問が「標準」である数オリにおいて、4時間で5問を与えられる本選は、恐らく皆さんの思っているより遥かにスピード感を求められるものです(この感覚は経験を積めば積むほど良くわかります)。やはりコンテストの前半、すなわち最初の2時間で前の2問は片付けておきたいところです。これが実現できれば、入賞の確率は一気に高まってくると思います。
しかし、これが実現できなかったからといって、絶対に自暴自棄になってはいけません。これはあくまで入賞を確実なものとするためのストラテジーであり、これが出来なければ入賞できないなんてことは勿論ありません。上に述べたように、本選のセットはブレが大きいです。私が中2で初めて参加した2017年の本選では、なんと平均点ベースで見れば問3が問1や問2より簡単で、実際に私もまず問3がするっと解けました(今振り返れば、よくぞ中2ながらちゃんと見極めて問3に飛ぶ勇気があったものだと思いますが)。本選では基本的にまずは前から順に解くことしか私はオススメしませんが、手詰まりになったときに固執するのは最悪です。必ずすべての問題のステートメントに一度は目を通すようにしましょう。私は必ず試験が始まったらすぐ一切の思考を抜きに全ての問題を見るようにしていました(加えて幾何の図だけは最初に書いていました)が、見てしまうと気が散るという人もいるでしょうから、これの好みは人によると思います。
度々の自分語りで失敬しますが、私が中3で初めて入賞した2018年の本選の経験を伝えましょう。ネタバレ防止のため詳しいことは述べませんが、この年の問1は波乱を呼びました。私もコンテスト残り30分の時点で、問2を余裕をもって完答しているのみで、すっかり絶望の淵に立たされていました。しかし、そのとき驚いたことに問1の解法がスッと降ってきたのです(これを超える「天啓」体験は数オリ人生で結局無かったような気がします)。答案作成は幸い10分ほどで終わり、束の間の感慨に浸るも、まだマリアナ海溝が日本海溝になった程度で、絶望の淵であることに変わりはありません。しかし、なんとそのとき問3のおおよその道筋もスッと降ってきて、詰めこそ間に合わなかったものの、試験終了の合図まで必死にペンを走らせました。結果として、入賞者のリストに私の名前が在り、最後の30分で8点から19点まで引っ張り上げていたことが後に明らかになりました(ボーダーは17点)。
人というのは不思議なもので、試験開始から30分間も、終了までの30分間も、同じ30分間であることに変わりはないのに、メンタリティが著しく変わってしまいます。きっと体感として後者は何倍も早く過ぎていくものではないでしょうか。しかし、同じ30分間なのです。ギリギリになっても「これは試験開始からの30分間だ」と自分を信じ込ませることが大切です。そうすれば、もしかすると上のような大逆転があなたを待っているかもしれません。
ああだこうだと書いてきましたが、しかし最も大切なことは結局エンジョイすることです。数オリという営みは基本的に愉しみであるべきなのです。予選を無事に突破し、本選形式に触れられることにまずは精一杯の歓びを見出しましょう。入賞の栄冠を掴める人間は毎年20名程度しかいません。最上位の世界に触れてしまっている人はもう感覚が麻痺しているのですが、これは凄まじいことなのです。不必要にプレッシャーを感じる必要はありません。まずは目の前の1問1問に取り組めること自体を歓び、そして1問ずつ解き切ることを歓び、そうすれば結果は自ずからついてくるものですから。
健闘を祈ります。合宿でお会いしましょう。
…ところで、なんで封筒を切り開く変人が2人もいるんでしょうか。もっといるかもしれません。
馬杉
で、本選に進むひとだったら、まあ予選は通ったか、そうでなかったなら免除されていてラッキーだったひとか、どっちかですね。
IMOで旅行がしたいと。なるほど。なら本選は通るしかない。というわけで通っていきましょう。
経験者からのアドバイス 1. 「試験前には気持ちを和ませよう」
他人を威圧するなんてもってのほかです。そんな気持ちで試験に臨んでは取れるものも取れなくなってしまいます。そもそも本選なんて基本的にそんなに難しくないので、ワンステップかツーステップくらいの解法を思いつけたら勝ちです。なので気迫を入れまくってバチバチバチっていうよりは、気楽にいったほうがいいのです。むしろ会場全体を和ませる気で行った方がいいでしょう。例えば楽器とかを持っていって会場で演奏するのはありです。会場全体に通るくらいの音を出す練習もした方がいいでしょう。こういうことまで抜かりなく準備できるようにするっていうのは、IMOで旅行をするときにも役に立ちます。
経験者からのアドバイス 2. 「ほかの人間をそんなに気にしない」
もしかすると、たまたま数学オリンピックを受けていたクラスメイトが自分の前の席に座っていたりするかもしれません。もしかすると、前の席に座っている人間が急に自分の頬を叩き出すかもしれません。まあそういうのはあんまり気にしないようにしましょう。一見自分からみたら風変わりな行動でも、そのひとにとっては自然な行動で、ちゃんと理由があったりするので。
経験者からのアドバイス 3. 「封筒は試験開始後に破る」
解答用紙や計算用紙などが入っている紙封筒が配られていたりするんですかね。計算用紙は確か無地のB4サイズの紙が5枚とかそんなんだった気がします。最後に受けてから一年経つのであんまり詳しく覚えてないんですけど、まあとりあえず封筒は紙なんです。で大体計算用紙二枚分くらいの大きさがあります。試験前に注意がなされなければ、もちろんそれは禁止されてないってことになります。当たり前ですね。
禁止されていない場合は、開始直後に、周囲にある程度わかるように破るといいでしょう。周りにも教えてあげないとですね。みんなやらないんですけど。
経験者からのアドバイス 4. 「まあ落ち着こう」
1時間くらい一切なにもできないときって結構焦ります。結構どころじゃないっすわ。1時間あって0問解けたってことは単純計算で4時間あったら0問解けるだろうってそりゃ落ちるんですね。ヤバい。ヤバかった。まあそんなんでも、そのあとちゃんとやれば通ります。そのあとちゃんとできるかってのが一番大事。
試験時間を 1 秒も無駄にできないと考えているのであれば、いますぐその無駄な考えを捨てましょう。どうしても手の付け方が一切わからない、そんなときは 10-20 分くらい寝た方がいいです。睡眠に入るっていうのでなくて、なにも考えない。もしくは試験と関係のないことをする。紙の類はあるので、例えば折り紙とか、そういう工作をする。イラストが描けるなら、なにか描いてみてもいいかも。もっと意味のないことの方がいいときもありますね。まあつまりどういうことかっていうと、手の付け方がわからないっていうのは、根本的な方針ミスをしていることが多いです。「なんとかして解いてやろう」と意気込んで特定の手法にこだわって意味不明な記述を無限に作成するよりは、例えば「スマートに解いてやろう」であるとか「どういう気持ちを示せば解けるのか」とか、そういうちょっとフラットな視点でやってみた方がいいときもあります。こういうコンテスト受ける人間は比較的こだわり強いひとも多いのかもしれないですけど、たまにはフラットに、スマートにやった方が得ってこともあります。case by case.
例えば整数論が得意で、整数論の問題が1番にあるのにどうやっても解けない。これは焦る。そんなとき一旦気を抜いて、$\bmod 3$ とか $\bmod 8$ とかで瞬殺できないか。平方完成一発じゃないか。とりあえず一旦気を抜くってのが大事なんです。こういうのって。
でどうしてもわからない。そういうときは3番とか4番とかの問題を眺めるのも手です。5番見てもいいんですが、まあひょっとしたら解けるかもしれないけど、それひょっとできるなら本選通るかあんまり悩んではないですよね。でも問題の主張が面白かったりするんで、読んで落ち着きましょう。解けないからって読まない必要はないんです。それにひょっとするかもしれないし。
何が言いたいかって3番とか4番の方が意外にすぐ解けるってことあるんですね。4番なんてそこら辺のぺーぺーはみんな勝手に“捨て”てます。でも意外と簡単だったりする。1番も2番も解けてないんだったら3番からやったって変わりゃしないんで。でしっかり考えましょう。
経験者からのアドバイス 5. 「下手は休め」
下手の考え休むに似たりってありますね。違うんですね。休むより悪い。これはマジでほんとで、時間だけじゃなくて気力も消えていくので。
じゃあどうすればいいか。上手な手を打てばいいんです。しっかり考えましょう。
これは大体の場所で言えることなんですが、物事に際して、「適切な観察と適切な考察」ができれば基本的になんでもできるんです。そりゃまあこういう試験だったらそれに加えて基本のテクニックくらいは知ってる必要はあるかもですけど。たいていのものごとは案外シンプルなんです。少なくとも本選通るくらいならそうです。
経験者からのアドバイス 6. 「解答は丁寧にしすぎると時間と解答スペースに困る」
真面目に解答書く練習してないと、こういうのわかんないんですよね。まあ自分はすぐ解くの得意なので困らないんですけど。平面図形とかでいちいち「角 $ABC$ と角 $DEF$ が等しく角 $BCA$ と角 $EFD$ が等しくかつ線分 $AB$ と線分 $DE$ の長さが等しいため、一辺両端角相等である。したがって三角形 $ABC$ と三角形 $DEF$ は合同。」とか書いてたらキリないの。定期テストじゃないからその辺気負わなくていいので。
「整数全体の記号を $\mathbb{Z}$ って書いていいんでしょうか、不安です……」いやいいよ。ダメなわけないじゃん。数学で普通に使ってるからね。普通の数学の言葉使ってればいいんです。ただ数学で基本やらない言葉遣いはダメです。どうしても不安なら調べるか、聞いてください。
でも数学的な論理は丁寧にしてください。
これくらいが試験中のためのアドバイスです。まあこれ意識するとか関係なく、数学の特定の技術があれば大体通るんで。じゃあ試験前はどうするのって、問題解きまくればいいんじゃないですか。うまくやればいいんです。Beat goes on. 役に立たない文章を量産しがちです。でもそういうのがいい。
渡辺
得意不得意の少なかった私はどの年度でも前から順番に解いていたので解く順番は各自に任せます。 基本的に実力で何とかするしかないので自分は天才だと思って乗り切ってください。 経験談に基づく教訓を二つお伝えします。
1点を落とさない
私は実際にJMO2020の3で十分性の確認を忘れて88780の31点になりました。 他の問題ができていたのでメンタルはやられませんでしたが、ボーダー付近にいてミスに気付いた時にはハゲると思うので気を付けてください。 他に考えられるミスは四則演算のミス、幾何のコーナーケース(点が一致など)などでしょうか。また選抜のために厳しい採点が行われ、それが合否に直結した例もあります(2019のボーダーは16点で特に2Cの採点が厳しく、ここで1点を落とさないのが本質でした)ので丁寧な議論を心がけましょう。
1点を取りに行く
私はJMO2018で88100の最低点で本選を通過した後代表になりました。 あのときの試験では幾何の実力が不足していたため問2で相当時間を食って、最後に残っていたのは30分ほどでした。そこで問3でサイクルに関する簡単な考察をして試験を終えました。この1点がなかったら私の数オリライフは大きく異なっていたと思います。最後まであきらめないでください。
吉田
個人的な経験から言うと、直前に見ていた内容が試験に出るということは極めてよくあることです。直前に2019年のJMO本選の1番を見ていれば、2020年のJMO本選で1番を瞬殺できるでしょうし、直前に『獲得』を読んでおけば、Pascalの定理が思いつきやすくなるでしょうし…。5問しかないので的中する確率は低いですけど、でも5問しかないので的中すると非常に大きなアドバンテージになります。
- 直前になると、本選が近づく焦りと緊張が入り混じった不思議な気分にとらわれてなぜか問題が解けなくなります。「直前なのに悠長に問題なんて解いてる場合じゃねぇ!」という気持ちにどうしてもなってしまう場合は、問題を解かずに答えを読んで勉強してみるのもアリだと思います。幸い問題のリソースは(特に英語ができれば)山ほどありますし、今まで触れてこなかったアイデアを一気に吸収することができるので面白いです。ここで吸収したアイデアが出題されたらなかなかの好運です。
- 対策するときは、JMOの過去問や出題形式にこだわりすぎる必要はありません。JMO然り、どの国のどんなコンテストにも特有のクセがあることは否めないので、いろんな国の問題を解くことを僕は勧めます。ちなみに僕はアメリカの問題(ELMO, USAMO, USEMO, USATST, TSTSTなど)が好きでよく解いていました。
結局、対策にしろ直前の過ごし方にしろ「正解」も「最適」もないですし、自分の好きなように、楽しいようにやれば良いと思います。自分なりの自然なやり方を見つけましょう。